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いまさら聞けない勉強室&ワード集



牛はなぜ草であんなに大きくなれるのか?


【草食動物】 

も〜ぅ、もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。
 牛はいつも「もぐもぐ」を繰り返しています。
「反すう」動物。一度胃に入れた牧草や稲わらなどを吐き戻して食べていることからこう呼ばれています。「草だけ食べて、どうしてあんなに大きくなれるのだろう」そう思ったことはありませんか?
 のんびりともぐもぐするだけで、大きくなる牛。そこには不思議な世界がありました。

【胃の中の不思議な世界】

 牛には胃が4つあります。4つの中で、最後の胃だけが「本物」。人間と同じように胃液を出して食べものを溶かします。前の3つは、食道が変化してできた胃です。
 最初の胃には、細菌や原虫といった微生物がたくさんいます。ここは、水がたっぷりあって温度もペーハーも微生物に最適な状態。まるで発酵タンクです。口から牧草や稲わらなどが入ってきたり、一度混ぜ合わされて口に戻ったものがしっかりと混ぜ合わされ、もう一度入ってきます。ふつうの動物には分解できない植物繊維もある種の細菌にはごちそう。植物繊維を分解しては繁殖します。分解された栄養分の一部は牛が腸で吸収。そして、繁殖した細菌は原虫に食べられます。
 この原虫と細菌も食べものと一緒に胃から腸へと送られ、吸収されます。牛の摂取カロリーの約20%は、これら動物性のものとか。つまり、牛は草だけじゃなく、ちゃんと動物性のタンパク質もとっているのです。



【牛も現代病】

 日本の牛は、日本人と同じように飽食です。
 かつての牛は牧草など繊維質の多い粗飼料中心で育てられていましたが、今では、トウモロコシ、大麦など穀物飼料を与えられることが多くなりました。栄養豊富で吸収が早い穀物飼料は、肉質を柔らかくしたり、牛乳の脂肪分タンパクを高くするために使われます。
 日本では放牧地が確保しにくく、また、安い輸入飼料が大量に入ってくることから穀物飼料を与える割合が大きくなるのです。また、日本人のサシ好みが脂肪分の多い穀物飼料を使うことにつながっています。
 ところが、牛にとって穀物飼料は「ハンバーガー」みたいなもの。カロリー豊富で、噛む回数も少なくなります。
 穀物飼料を与え続けられた牛の胃の中では、細菌が第1胃の発酵タンクの中で異常発酵します。その結果、循環器系の障害が起こって肝臓病にかかります。また、繊維質が少ないので胃のひだひだが退化して胃腸が弱ってしまいます。穀物飼料のために牛が病気にかかりやすくなります。
 そのため、抗生物質などの薬剤に頼らなければならなくなります。
 手軽なファーストフード「穀物飼料」は、牛の健康と牛肉の安全性にとって決しておすすめではありません。
 牛は、人間に食べられない牧草を食べて育つことができます。有機農業では、堆肥としても欠かせません。稲わらなど農業と畜産堆肥をうまく循環させることで、持続的で地域の環境を保全する生産のしくみをつくることもできます。
 牛とのつき合い方を考えることは、日本の農業のあり方を考えることにもなります。狭い国土で、放牧だけでは肉牛と乳牛を生産できない中、放牧と舎飼いの両方から、牛の生理にあった健康で安全な、環境を汚染しない育て方をつくることが大切です。
 近年、減反された田んぼで多収穫米を栽培し、飼料として与えようという試みがあります。今や、牧草も穀物飼料も輸入に頼っている日本。決して減反がよいとは言えませんが、自給率を高めるため、水田を残すための取り組みとして注目です。


 
参考資料:『日本人と牛肉』(岩波ブックレット121、荏開津典生)、『動物達の地球121、122』(朝日新聞社)


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