海の寄生虫
【アニサキスとイルカ】
刺身を食べて、4〜5時間後、発熱や下痢はあまりしないけれど、腹痛や吐き気に襲われた。こんな時に考えられるのが寄生虫の「アニサキス」です。
アニサキスは、虫といっても他の寄生虫と同じく昆虫ではありません。回虫の仲間です。
もともとは、イルカなど海のほ乳類の胃に寄生します。海の中で卵がかえり、オキアミ→魚→海生ほ乳類(イルカなど)という生活をしています。
そのため、多くの種類の海産魚からアニサキスの幼虫が見つかります。
魚がイルカなどに食べられるとアニサキスは成虫になれますが、魚が人間に食べられるとアニサキスは幼虫のままで成虫にはなれません。そして、胃や腸の壁に頭を突っ込むために人間が腹痛を起こすことになるのです。
アニサキスにとっても、人にとっても不幸なことです。
アニサキスが多く見つかる食用魚としては、スケトウダラ、タラ、カツオ、ニシン、アジ、スルメイカ、そして、サバがあります。もちろん、その他のイワシ、サケなどからも見つかります。
【どんな魚にもいる!?】
アニサキスのように、生きたまま人間の身体に入ると悪さをする寄生虫はごくごく例外です。そして、アニサキスに限らず、いろんな寄生虫が魚の表面、内臓などについていることがあります。
魚にとっては当たり前のこと。
魚や貝を食べると小さなカニやエビが出てくることがありますが、彼らも寄生生物の一種です。
「寄生」という言葉だけでイヤな感じになるのも事実ですが、自然の中では当たり前にいるわけで、人間に悪さをしないものもまとめて悪者扱いにするわけにもいかないのかな、という気にもなります。
【魚は食べたい…だから】
味・栄養バランスを考えると、魚はとても魅力的な食べものです。「アニサキスがいるからといって、刺身を食べなくなった(日本人の)寄生虫学者はいない」と、寄生虫学の教授も書いています。
では、おいしく、安心して魚を食べるにはどうすればいいのでしょうか。
酢でしめる。ワサビやシソ、ショウガを合わせて食べる。伝統的な方法です。
残念ながら、アニサキスが身にいる場合、酢じめや薬味ですべてを殺すのは難しいようです。
ただ、日本酒(アルコール)ならば、50分ほど漬けておけば大丈夫だということです。
ところが、いい方法があります。アニサキスなどの寄生虫は、熱や冷凍に弱いのです。60度以上の熱を加えるか、−15度で4時間以上の冷凍で死滅します。
ですから、−20度近くで冷凍保存している魚介類の場合、アニサキスなどの寄生虫の心配はありません。
生魚の場合でも、内臓をきれいに取り除くだけで、寄生虫がいる可能性がずいぶん減るそうです。
【どうしてもいやだったら】
どうしても寄生虫がいやだったら、刺身を食べるのはやめましょう。きちんと中まで火を通せば、たとえ寄生虫がいても大丈夫です。ついでに、食中毒対策にもなります。 でも、やっぱり、刺身の魅力にはかないませんねぇ。
参考資料:『寄生虫の世界』(鈴木了司著、NHKブックス 1,000円)、『寄生虫館物語』(亀谷了著、ネスコ/文芸春秋刊)
目黒寄生虫館:JR目黒駅西口から徒歩15分
copyright 1998-2000 Keiki Makishita