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いまさら聞けない勉強室&ワード集



微生物はすごい!
 微生物には大きく分けて、原生動物、藻類、カビ類(糸状菌)、細菌(桿菌を含む)があります。
 この中でも日頃はバイ菌と言われて嫌われることが多い細菌やカビ類ですが、これらなしに人間の生活は成り立ちません。
「抗菌」「除菌」ブームだそうですが、人間の体表や口の中、腸などには、細菌がいっぱい。一説には人間の細胞数よりも多いとも言われています。それに「抗菌」するのはばかなこと。おばかなことをまじめにやっているからちょっと怖いのですが…。
 人間と微生物の関わりをまとめてみました。


【人間の身体と微生物】

 人間と細菌といえば、真っ先にさまざまな病気が頭に浮かびます。なんと言っても昨今は病原性大腸菌O−157。除菌、抗菌ブームとともに現われてきました。また最近は、結核がはやっているとか。結核や赤痢などは悪い細菌が原因。虫歯も細菌が原因です。人間の身体の中にはたくさんの細菌が住み着いています。特に小腸や大腸には乳酸菌、大腸菌など多くの菌がいます。
 通常の腸にいる大腸菌は、健康でいる限り特に悪さはしません。また、病原性大腸菌も、人によって発症したりしなかったりと腸の中の微生物や身体の状態によって異なります。
 さて、菌は人間の身体で何をしているのか? 菌にとってすべての生物の表面は、生息の場です。中でも腸は栄養が勝手にやってくるとてもいい場所。そこでは、乳酸菌、大腸菌など複数の菌が繁殖しては大便として流れていきます。その過程で、人間の身体の中で人間が食べたものやそれを食べて繁殖した他の菌を食べたりして繁殖した細菌が、それらをもう一度分解して、再合成しています。いろいろな菌がバランスを取り合いながら人間と共存しています。そして、腸内の菌のバランスがよい状態にあると、ビタミンの合成や、悪い物質の分解、腸の吸収促進に役立っています。だから、人間にとっても菌は都合がいいのです。
 ところが、この腸内細菌は、食べものの種類やストレスなどですぐにバランスが変わってしまいます。悪い物質を排出する菌が優勢になると、身体の調子も悪くなります。
 バランス良い食生活とストレスのない生活は、腸の中の細菌にとって大切なことです。腸内細菌が喜んでいると、人間の身体も健康になって喜びます。
「笑う角には福きたる」ストレスのない、楽しい生活をしている人は、まさに、腸の中で「福」の菌が育つのです。ちょっと楽しい関係ですね。

【食べものと微生物】

 あ、またカビを生やしてしまった。そんな経験を持った方は多いでしょう。食べものにとってカビは大敵。でも、カビや菌が必要な食べものも多くあります。
 パンをふっくら仕上げるのは、イースト(酵母菌)のおかげ。日本酒やワイン、ビールも酵母菌があってこそ。発酵は、菌の働きで起こります。発酵食品の例を挙げると、味噌、醤油、酢、納豆、お漬けもの、ヨーグルトなどきりがありません。また、かつおぶしやブルーチーズのようにカビをうまく使った保存食品もあります。特に日本では、米、大豆、麦を使った発酵の文化が栄えています。これらがなくなった食生活を考えると、悲しいものがありますね。

【農業と微生物】

 農業の現場でも微生物は大活躍です。特に有機農業では、微生物にとてもお世話になっています。
 まず、土。土の1グラムには約50億の生命体があると言われています。ふかふかした土をつくるのも、微生物がいて、有機物を分解しているから。微生物がいない土では、ガチガチで、風や雨に流れる、砂漠のように不毛の土地になってしまいます。
 また、堆肥作りも微生物のおかげ。稲わらや牛糞などを分解、発酵して、作物のごちそうに変えてくれるのです。
 さらに、大豆の根につく窒素固定菌では、直接植物と共存して、植物から栄養をもらいながら、空気中の窒素を植物に与えます。このような菌の働きも作物には大切です。

 化学肥料は、この菌類のエサにはなりにくいものです。また、土壌燻蒸剤は土の中の微生物をすべて殺してしまいます。農薬や化学肥料は微生物にとっては決して望ましいものではありません。そして、微生物のバランスが崩れると、その土地の環境が破壊されます。

 環境保全や自分の健康のためにも、悪い微生物だけに目を向けないで、微生物とのいい関係を大切にしたいですね。

参考文献:『森と海と大地はひとつ1〜4』(日本リサイクル運動市民の会編)、『土壌微生物の基礎知識』(西尾道徳著、農文協)、『腸内細菌の話』(光岡知足著、岩波新書)


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