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いまさら聞けない勉強室&ワード集



生態系と人間


「エコロジー」という言葉が氾濫しています。どうやら「環境保護」という意味で使われることの方が多いようですが、もともとは「生態学」という意味です。
 さて、生態学とは「生態」を題材にした学問ですが、最近は、「生態系」という言葉もよく耳にします。
 自然は、複雑です。動物、植物、菌類といった生命が、それぞれに影響を与えあい、さらに、石や水、空気などにも影響を与え、与えられて、今の地球の姿になっています。
 空気中の酸素でさえも、元は海の中の植物が作ったものです。
 ところが、人間の長年の活動により自然の生態系のバランスが崩れてきました。そこで、もっとよくこの関わり合いを知り、どこがどうつながっているのか、部分と全体を知ることが必要になっています。


【生態系は動いている】

 話を簡単にするために、ここにキツネとネズミと木の実だけの世界があるとします。ネズミのエサの木の実が豊富な時には、ネズミは急速に数を増やします。キツネは、ネズミを食べて繁殖し、ネズミに遅れて数を増やします。
 ところが、ネズミが増えると、ネズミのエサの木の実が足りなくなります。キツネが増えると、キツネのエサのネズミが減ります。
 エサが足りなくなり、キツネにも食べられて、ネズミが減ると、ネズミをエサにしていた、キツネが減ります。木の実は次のシーズンにたくさん増えます。すると、ネズミが…。
 たった3種類の生物だけでも、生態系は静かではありません。数が増えたり、減ったりしながら、どれもが食べるー食べられる関係の中でバランスを保っているのです。そして、キツネが極端に増えすぎてネズミを食べ尽くしたり、ネズミが極端に増えすぎて木の実を食べ尽くしたりすると、この生態系は滅んでしまいます。動きのない、生物のいない世界になってしまいます。

【人間も生態系の一員】

 実際の生態系はそんなに単純ではありません。たくさんの種類の動物や植物、微生物がいて、お互いに影響をし合うことで、一気に滅んでしまったり、生態系が壊滅的な状態になるのを防いでいます。
 つまり、地球では生態系は複雑であればあるほど安定していると言えます。
 そして、その複雑な生態系の一員として生まれたのが人間です。

【人間は単純がお好き】

 人間は、農業で食べ物を作ることができます。それによって、飛躍的に人口を増やしました。
 ところが、農業をはじめ人間の営みは、生態系が複雑になろうとするのとは裏腹に、単純にしようという働きです。
 農業を例にしましょう。同じ土地でひとつの作物ばかりを育てると、当然のようにその作物を好む生物が集まります。しかし、それらは人間にとっては病害虫です。そこで、農薬が登場し、病害虫をなくそうとします。
 ところが、病害虫が畑に集まったのを見て、その病害虫を食べたり、バランスを取ろうとする生き物が集まってきます。多くの農薬は、これらの益虫や有益な微生物なども殺してしまいます。
 すると、病虫害だけでなく益虫や有益な微生物も死んでしまい、バランスが悪くなります。自然の抑止力がなくなった結果、病害虫が突然大発生することもあります。
 泥縄式に状況は悪くなったりします。
 単純に作物と病害虫との関係だけでしか生態系を見なかった結果、さらに生態系のバランスが崩れてしまうのです。
 こんな例もあります。東南アジアでそれまで水牛で農耕していたところに、トラクターを入れて、水牛をなくしました。そのために、それまで水牛にたかっていた蚊が人間に刺すようになり、蚊を通して人間に新しい病気が広がったというのです。
 天に唾するようなものですね。

 ある有機農業生産者がこんな話をしていました。
「殺虫とか、殺菌とか、抗菌とかよく言うけれど、人間の体の中にだって、何億という微生物がいるわけでしょう。外側にはいろんな生物がいるわけだ。もしかしたら、体の中や外にいる微生物や生物のおかげで、別の病気などにかからずに済んでいるのかも知れない。誰も分からないんだ。病気でもないのに、なんでもかんでも虫を殺したり、菌を殺したりしようとするその考え方が、実は生態系を破壊し、自分たちの首を絞めているのではないだろうか」


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