ちれぢれ草「社会・文化編4」 2002.2.5

池田久子

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〜〜〜〜  ちれぢれ草 〜〜〜〜 8巻  「社会・文化編4」 2002.2.5
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「 ちれぢれ草」は、チリ共和国に青年海外協力隊の村落開発普及員として
赴任しているわたくしが、日本から17000キロ離れた任国チリを少しでも知
っていただきたく、日々雑感を徒然なるままに綴ってお送りさせて頂きます。
ご不要の方はお手数ですがご連絡ください。   送信者:池田久子
 
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先週末、日本の私の大切な友人が結婚式をあげました。参加できなかった
のが本当に残念でしたが、その1週間前の土曜日にちょうど同僚の結婚式に
出席したのです。今回はチレの結婚式について報告しましょう。

夕方まだ明るい8時に教会での結婚式が始まりました。スーツ姿で壇上にたつ
牧師さんらしき人がフォークギターをジャーンジャーンとかき鳴らし、それにあわ
せて賛美歌そして式が始まりました。新郎入場、同僚の農業技師 フェリシアノ
32歳。続いて新婦エリザベス 20歳。普段はポロシャツにジーンズの彼も今日
はスーツ、ちょっとぶかぶか。可愛い新婦はノーマルなウエディングドレス。
参列者は落ち着きがなくもぞもぞしたり赤ん坊が泣き出したり、と厳かな雰囲気
とは程遠い、村の集会というかんじでしたが「病めるときも健やかなる時も永久
の愛を誓いますか?」だけはだいたい聞き取れると、じーんと感動! そして誓
いのあつーいキス。会場から一斉に拍手が起こり、そしてだいたいこれで式が
終了しました。その後、子供たちは新郎新婦が出てくるのを待ち構え「おめでとー」
を言いつつライスシャワーをふらせます。そして「キスしろ、キスしろ!」の囃子
声。そこでまたまた熱いキス。はいはい。

さて、村の一番奥にある新郎の実家のある集落へ参列者のうちの親しい人たち
は移動です。私も村役場の秘書で下宿のマリア小母さんの娘のヒメナと夫マウリ
シオの車に乗って電灯ひとつない農村のガタガタ道を揺られました。とっぷり日が
暮れてきた9時半ころになるとさすがにこの道でよかったのかと道案内をする私も
不安になりましたがなんとか到着。

さて、披露宴会場は、実家の納屋を基点にビニールシートで天井を作り、簡単な
骨組みをし、裸電球が何個がぶらさがり、長い机と椅子は細長い木材を渡しただ
けの簡単なもの、もちろん床は土。そこに2メートルくらいもあろうかという大きな
スピーカーが2個備えられ、若いお兄ちゃんががんがんと踊れる曲をかけまくって
いました。景気のいい音楽がかかっているのになかなか到着しない新郎新婦の
ために皆手持ち無沙汰でぼーっとひたすら待つ。車のパンクで新郎新婦が到着
したのは10時半をまわっていました。ようやく「パパパパーンパパパパーン・・・」
の結婚行進曲がかかって新郎新婦そろって入場、そしてワルツを踊り、踊りなが
らもまたキスキスキス!はいはいごちそうさま。

それから皆でシャンパンで乾杯、お酒やおつまみがまわされます。この間がん
がんとクンビアなどの踊りの曲がかかるのに、誰も踊りにいかないのでしびれを
きらしたヒメナが「フェリシアノ、あんたたちが踊らないと誰も踊れないのよ」と促
し、新郎新婦がノリのいい曲で踊り始めると、ヒメナに「チャコ、行くわよ」と強引
にひっぱられ私も適当にクンビア踊りました。少し踊ってようやく席についた12
時ころ夕食がでてきました。メニューは牛肉の煮込みとジャガイモ。

そのうち結婚式の出し物が始まりました、まず新婦が椅子の上に靴を脱いで片
足をのせ、ドレスを腿までまくってガーター(レースのついたヘアバンドのような
物)を見せ、それを新郎が口でくわえて、ずりさげるのです。みんなピーピーやんや
やんや。無事つま先を抜けて通り抜けたら拍手で終了、そしてまた踊り踊り。

踊りが飽きたころ、今度は新婦のブーケ投げが行われます。後ろ向きになった新婦
が投げる方向に独身の女性が待ち構えます。もちろん私も。これは手にした人は
今年中に結婚できるというのでみんなかなり真剣でした。その後は新郎の手袋を独
身男性に投げます。こっちはまるでスポーツのような勢い。これまたやんやの喝采。
それが終わるとまた踊り踊り踊り。3時すぎくらいになって、今度はケーキカットが
始まります。その前にまた出し物があるのです。この宮殿のようなかたちにしつらえ
た大きなウエディングケーキにはリボンがたれさがっています。それを独身女性が
みな1本づつ握りせーので引っ張るとそのリボンの先ケーキのクリームの中に隠し
てあったものは・・・。指輪があったら今年中に結婚できる。そして赤ちゃんのお人

があったら、未婚の母になっちゃう!女の子たちはきゃーきゃーと騒ぎます。私は
どちらでもない普通の飾り物で一応、ほっ。

それからケーキカット、ケーキを新郎新婦はお互いに食べさせあい、また仲のいいと
ころを見せ付けます。そしてケーキが切り分けられ、ケーキを食べたり、踊りたい人
は踊ったりと宴は延々と続きます。私にも次々に踊りのお誘いがかかり、色々な男の
人とクンビアを踊りました。適当に体を揺すっているだけで、時々手をつないだり、
くるっとまわったりする程度ですが、それでも飽かずに踊りあかし、帰ろうかとなっ
たのは5時。家についたのは6時前で少ししらじらと夜もあけてくるころでした。

初めてのチリでの結婚式。司会も時間設定も、席順もスピーチも何もない、日本の村
祭りの会場よりも粗末な披露宴会場ですが、これが標準的なチリの田舎の結婚式。
でも、彼の兄弟や親類らが黙々と給仕し、幼馴染や集落のおじさんおばさんが村祭り
に参加しているように普段着でひょっこりやってきてお酒をすすりながら立ち話をし

いる。熟年カップルも子供たちも思い思いに踊る。でも、なんとも暖かく楽しい。
こんな結婚式だったらまた是非出席したいと思いました。お国が違えば結婚式はかな
り違います。それでも万国共通、新郎新婦の最高の幸せそうな笑顔が、結婚という
大切な場に参加できた喜びを与えてくれ彼らの門出を一緒に祝えることが何より幸せ
であったかい気分にしてくれるのだと知りました。新婚さん、どうぞ末長くお幸せに




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