ちれぢれ草 「生活編1」  2001.12.6
池田久子

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〜〜〜〜  ちれぢれ草 〜〜〜〜 3巻  「生活編1」  2001.12.6
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「 ちれぢれ草」は、チリ共和国に青年海外協力隊の村落開発普及員として
赴任しているわたくしが、日本から17000キロ離れた任国チリを少しでも知
っていただきたく、日々雑感を徒然なるままに綴ってお送りさせて頂きます。
ご不要の方はお手数ですがご連絡ください。   送信者:池田久子
 
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「あいさつ」

前回2回の内容で、チリでの生活はおいしいものを食べて毎日さぞかし幸せ
なんだろうと思われたかもしれませんが、とんでもないです。乏しい自分の
言語能力と仕事上の無能さに落ち込み苛立ち、生活習慣や対人関係にとま
どい、涙ふきふき(!)苦労の日々なのです。落ち込んだりはしてませんが。
 その努力のひとつに「チレ流あいさつに慣れること」があります。

ご存知の方も多いでしょうが、こちらでは家族、友人その友人らへの親しい
あいさつは男性同士は肩をたたきあって固い握手、女性同士や、男性と女性
の場合は握手か肩や二の腕に手をかけて自分の右ホッペと相手の右ホッペ
をくっつけたタイミングに口を丸くすぼめてチュッと音だけたてるベソ(キス)を
するのです。これが慣れるまで意外に難しい!

はじめてこのチレ流あいさつをチリ大使館の書記官に日本でされたときは
硬直して、まるで平手打ちされるのを待つかのように奥歯を噛みしめ顎を
ひいて身構えてしまったものでした。チリに来て間もないころは自分のホッペ
を相手のほっぺにくっつけるタイミングと角度が難しく、よく失敗しました。
自分が座っているとき相手が近づいてくると中腰でたちあがるときこちらから
の勢いがつきすぎ頬骨同士がごつーんとあたって「痛た〜」と思いつつも笑顔
を保ったりとか、相手のメガネのふちに自分のホッペをつけて相手のメガネを
ずらしてしまったとか、ギリギリでホッペが触れないうちにひいてしまったとか、
咄嗟にどっちのホッペだったか混乱して慌てて左ホッペを差し出して危うく接近
遭遇しそうになったとか・・・。 

さすがに最近は家族とは最低1日2回以上×3人とベソをしているのでかなり
うまくなり、チュッの音も上手にできるようになったものの、今でも誰にいつする
のかという見極めが難しい。職場は結構さっぱりしていて同僚とはあまりしな
いので精神的に楽ですが、職場に来るお客さん関係は誰にして誰にしないの
かが分からない。また農家の定例会、5人くらいまでならいいけれど、10人を
越したらどうしよう? 農家の男性はだいたい麦藁帽子のような大きなひさし
の帽子をかぶっているので、相手がそれをいちいち脱いでひとりづつベソをし
ていると時間がかかる。でも誰かにして誰かにしないのも差別みたいで変。
誰にもしないと、あの日本人お高くとまっているなあと思われたら嫌だし・・・。
考えていると結構ストレスになって、これを下宿の家族に相談したら「全部に
してまわるのは変だからしなくていいよ、言葉のあいさつだけで。」と助言され、
ちょっとほっとしました。

でもまだ慣れないこと。それはヒゲ。日本では無精ひげと嫌われるようなタイプ
のヒゲの人も多いですが、中にはしっかりフサフサ生えそろった人もいて、
短い人にはチクチク、長い人にはモサっとした感覚を与えられますが、これが
どうも苦手です。そしてさらにおじさま方の中には唇を私のホッペにぶちゅっと
あてるベソをする人もいて、たまにホッペに湿ったものが・・・! ちょっとこれに
慣れるには相当時間がかかりそうです。

ちなみに、私たち日本人はベソのあいさつが苦手な人が多いので「ベソを照れ
ずに習慣づけるため、協力隊員同士でも普段からしようではないか!」と提案
したのがヒゲの男性隊員。「やだ!」と反対しているのはすべて女性隊員。
1月の隊員総会で提案されるという噂もあるこの「日本人同士のベソの励行」
果たして、実現するでしょうか?

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