ちれぢれ草「生活編3」 2002.5.1
池田久子

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〜〜〜〜  ちれぢれ草 〜〜〜〜 15巻  「生活編 3」 2002.5.1
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「 ちれぢれ草」は、チリ共和国に青年海外協力隊の村落開発普及員として
赴任しているわたくしが、日本から17000キロ離れた任国チリを少しでも知
っていただきたく、日々雑感を徒然なるままに綴ってお送りさせて頂きます。
ご不要の方はご遠慮なくそのまま返信してください。 送信者:池田久子
 
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生活編「メーデー」

日本は大型連休の真っ最中ですね。今日5月1日はこちらでもメーデーで休日でした。
秋の休日、最近は最低気温5度前後、最高20度前後、広場の木々も落葉し、かなり寒
くなってきました。今日は下宿の小母さんと庭仕事。庭の草取りと、自分の菜園の整
理をしました。

8月末に村に着き、ちょっと落ち着いた9月、広い庭のなかでなにも植えていない雑草
の生えている場所を「野菜つくりたいんだけど・・・」と恐る恐るお願いして土作り
からはじめた3畳ほどの小さな菜園。かっちかちの土をおこし、石を拾い、羊のフン
1袋を投入し、庭の隅の落ち葉や腐葉土、肥えた土をかき集めて運び、薪ストーブの
灰もまきました。しばらくしてトマトの苗を10株植え、日本から送ってもらった十六
ササゲとルッコラ(イタリア料理で使うカラシ菜)の種を撒き、ちょうどクリスマス
の日に初めのトマトの収穫があってから4ヶ月採れ続けたトマト。

私の菜園などと言いつつ、12月から3月まで乾季の水遣りは御用聞きの男の人が数日
に1回、田んぼに水を引くように畑の周りの溝に水をヒタヒタにひいてくれ、収穫は
おばさんがしてくれ、私はわき芽欠き、支柱をたてたりという作業のみ。そのトマト
も、いまだ大きな実をつけている元気な2本を残してついに引っこ抜きました。ササ
ゲはもっと場所を広げて撒きたいわ、と小母さんから大好評だったし、色々楽しい思
い出のある菜園も雨季の冬は休ませることにし、さら地にして庭の落ち葉を埋め込む
ための溝を掘りました。そうしたら丸々太ったミミズを発見!最初はミミズ一匹も見
かけなかったのに、とうれしくなって感動!いまや土はホクホク柔らかくいい感じ。
「春になったらまた色々撒こうね」と小母さんと語りつつ、休日は終わりました。

村では今日は何事もない静かなメーデーでしたが、テレビニュースによれば昨日も今
日も大きな都会では学生や仕事のない人たちの抗議行動があったようでした。
 現在チリの失業率は8,8%。最近0.5%あがり、北部の砂漠の町ではかなり深
刻のようです。夏の果物や野菜の収穫作業のある時期には短期雇用が増えて失業率が
下がるのですが秋になり、それも終わってしまったことが増加の原因になっているよ
うです。
しかし実は1週間以上前、こんな小さなサンニコラス村でも抗議行動が史上初めて
あったのでした。役場の機能を止めるため役場の玄関を閉め、解決するためには知事
を呼べということだったようで、知事は来たけどそんな約束はできないと帰ったそう
で、役場職員(私も)は会議のため出張していた村長が戻って代表者と話し合った2
時半ころまで通常の勤務ができませんでした。と言っても抗議行動するほうも、役場
職員も緊張感もなく、ちょっとしたお祭り騒ぎ、真似事のお遊びというかんじでし
た。

抗議行動は代表の女性とその友人らの女性が中心で、いつもバス停や広場でウロウロ
しているような男性も数人加わり、鍋をがんがん叩いたり、ダンボールで作ったプラ
カードのようなものを掲げたりして「仕事欲しい!腹減った!」とシュプレヒコール
をあげ、隣の市のチジャンからテレビ局が着いたら喜んで役場の周りを20人ほど練り
歩いていましたが、後は井戸端会議のようにペチャクチャやっていました。そこから
少し離れて役場職員らは座って苦笑いしながらおしゃべりして見ていたり、近所の人
は家に帰ったり、こっそり裏口から入って中で仕事をしていました。私もヒマだった
のでほかの職員らと一緒にこっそり入ったら気づかれて外からドアを押さえつけられ
「500ペソよこさなきゃ開けてやらないよー」と言われたもんだから、ちょっと腹の
たった男の職員と私は窓から飛び降りて抜け出すことにしましたが。

家でその話をしたら「恥知らずだわ!彼らは怠け者なだけで仕事をしようと思ったら
家政婦とか、御用聞きとか色々あるのに、楽をしようとしているだけよ、代表の女性
は手の指に少し障害があるだけで生活保護を受けて働かないのに髪を染めたりと媚を
売った格好だけはしてるのよ」と小母さんも小父さんも憤慨していました。

「怠け者」と皆よく口にします。前同じ事務所で働いていた職員らも農家が事業を受
けようとしない理由に「農家が怠け者だから」と言います。確かに農家への事業は、
灌漑設備なら95%が助成、5%のみ農家負担、他のビニールハウスや家畜飼育、果
樹などの事業には75%助成、25%農家負担というもので、こんないい条件でどう
して少し無理してもやってみようと思わないのか不思議に思うことも多かったので
す。

農産物、木材チップ、魚介類の輸出は日本をターゲットにまだまだ伸びそうな分野だ
し、南半球でそして地理的に陸の孤島で果樹類の病害虫が少ないという利点を生かし
まだまだ農業による国の発展の可能性がいっぱいあると思えてならないのですが、理
想とする発展方向とそれを実行していく人間の根本的な問題とがうまくかみ合ってい
ない印象を受けます。金持ちと貧乏の差、都会と田舎の差、能力のある者とない者の
差、デジタルな世界とアナログな世界の差、世界中がそうかもしれないけどこういっ
た差は開く一方、というのが現実のようです。


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