リトル・タジャン再々訪
鈴木敦

 前回6月に訪問した際設置した気象観測機器からデータを回収するため、10月4日から約1週間リトル・タジャンへ再訪した。
 温度および湿度に関してはサーモ・レコーダー「おんどとり」の設定にミスがあり、8月14日からのデータとなっていたがそれ以降のデータは無事回収できた。また降雨量についてはジュリアス氏の協力の下に前回訪問時からのデータが得られた。これらの気象データは1年間の記録を得ることを目標としており、現在も継続している。
 今回の訪問時は、ちょうど有機栽培トウモロコシの今年2回目の収穫時ということで数カ所の圃場を見て回った。今回の予測収量は2.0〜2.5t/haと慣行栽培の3.5〜4.0t/haには及ばないものの徐々に栽培技術は向上し、収量は増加している。今作での問題点はコーンボーラー(アワノメイガの幼虫)による被害とのことであった。これにより有機栽培トウモロコシで約20%との減収となり、2圃場でそれぞれ50本のトウモロコシを調査したところ食害発生率は100%と50%であった。食害が著しく茎部が途中で折れ、収穫が全く期待できないものは少なかったものの、ほとんどのトウモロコシが程度の差があれ食害を受けていた。食害を受けた部分から予想すると第2、3世代の幼虫によると考えられた。この地域でのトウモロコシ栽培は有機栽培、慣行栽培を問わず年2作の連作で殺虫剤は使用していない。個々の生産者がそれぞれの時期に作付けを行っており、この地域では一年を通してトウモロコシが存在している。これはコーンボーラーにとっては常に餌があり、繁殖可能という好条件であり、今後さらにこれによる被害が増大していくことが予想される。CORDEVではコーンボーラー対策として次作よりニーム等の資材(注1)の使用を考えているとのことであった。茎部にもぐり込むコーンボーラーのよう害虫は殺虫剤よる防除が難しい。植物内にもぐり込んでから殺虫剤を散布しても効果は期待できず、散布時期の特定には出現観察が重要となる。グレッグ氏の話では近々近隣でBtコーン(注2)の試験栽培が始まるとのことであった。トウモロコシの単一栽培地帯でこのような問題が発生してきたところでは解決策の一つとしてBtコーンが容易に普及する可能性がある。しかしそれもこの環境ではBt耐性昆虫の発生を促し、その効果が一時的なものになると思われる。根本的な対策はコーンボーラーのライフサイクルを断ち切ることであり、輪作体系を確立することが重要である。
 リトル・タジャンにおいて輪作体系に大豆を組み込むことを考えている。大豆を作付けした場合、トウモロコシと同様に収穫をできるだけ乾燥した時期に設定する必要がある。これは雨期などに乾燥不十分な状態で収穫するとカビが発生し、アフラトキシンに汚染される恐れがあるためである。そのためにも、現在行っている基礎的な気象データの蓄積は有用である。またこれらのデータは植林する際の時期や樹種の選定にも活用していきたいと考えている。植林はアグロフォレストリー・システム(注3)の考え方を取り入れ、自家用果樹(マンゴー、ココナッツ等)、放牧家畜のための庇陰、木材および燃料用等の樹種を組み合わせを考えている。まず最初に有機圃場を明確にするためその周辺に植林したいというグレッグ氏の提案があり、次回気象データ回収のために訪問した際は、この件に関する具体的な打ち合わせを行う予定である。

注1)ニーム(インドセンダン):インドとビルマを原産地とする樹木。果実には殺虫効果を有する天然有機化合物が含まれ、殺虫剤としてその抽出物は有機農業においても使用が許容されている。

注2)Btコーン:バチルス・チューリンゲンシスという微生物が生産し、昆虫に対し殺傷効果のあるBt蛋白を遺伝子組み換え技術により組み込んだトウモロコシ。

注3)アグロフォレストリー・システム:ある土地に樹木または木本植物(果樹、香水、ヤシ類等)と農作物もしくは家畜をほぼ同時期に植栽したり放牧したりし、農作物の短期的あるいは永久的栽培、家畜の飼育を行い、植物資源を常に保有しつつ土地を有効に利用し生産するシステム。

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