フォーラムレポート
遺伝子組み換え作物と大豆畑トラスト

牧下圭貴

 大豆は、豆腐、納豆、味噌、醤油、食用油など日本の食生活に欠かせない食材です。また、農業でも豆科植物は土作りのために必要な重要作物です。しかし、99年の自給率は4%しかありません。私たちの食卓にのぼるほとんどの大豆はアメリカや中国からの輸入品です。一般的にアメリカ産の大豆は家畜飼料、油用として使用され、中国産の大豆は納豆や味噌、豆腐になります。これは、アメリカ産の品種が油脂分を多く含むもので、中国産の品種は日本産と同様にたんぱく質を多く含むものが多いためです。
 さて、1999年、日本全国で大豆の作付けが広がりました。98年が8.3万ヘクタールだったのに対して、99年は11万ヘクタールと大幅な増加です。残念ながら99年は天候不良などで収量が思ったほど伸びませんでしたが、2000年も引き続き11万ヘクタールが国内で作付けされました。これは、米の減反政策の一環として国が奨励しているもので、水田での米作りをやめて、水田を畑とし、小麦、大豆など自給率が低い作物を作ろうと奨励金をつけています。
 大豆、小麦の自給率が高くなることは望ましいことですが、水田をつぶしていくことには抵抗を感じます。また、せっかく作った大豆や小麦が輸入品の価格に負けて売れないという話も聞きます。政策的な矛盾を感じます。
 一方で、もうひとつの大豆作付け運動が数年前から広がりを見せています。それが、「大豆畑トラスト」運動です。

●遺伝子組み換え作物
 大豆畑トラスト運動は、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」という市民運動から生まれました。
 今、遺伝子組み換えの農産物が日本にたくさん輸入されています。大豆、トウモロコシ、菜種、綿などが中心ですが、いずれも日本の自給率が低い作物ばかりです。
 この遺伝子組み換え作物には、除草剤に強いもの、虫を殺すもの、病気に強いものなど、生産のときに農薬の役割や農薬の使用を前提にしたものが多くあります。今後は、ビタミン強化や鉄分強化など、栄養強化や機能性作物のようなものが登場しそうです。
 遺伝子組み換え作物にはいろいろな不安や問題点が指摘されています。
 まず、自然生態系に混乱をもたらす可能性があります。
 これまでの研究でも、たとえば殺虫性のトウモロコシを食べた害虫を益虫や他の虫が食べることでもともと殺すはずではない虫の死亡率が高くなったという結果や、除草剤に強い遺伝子をもつ作物と周辺にある近縁の雑草と交配して、組み込まれた遺伝子が広がってしまう遺伝子汚染の可能性もあります。
 次に、人間や家畜への影響です。遺伝子組み換えされた作物には葉にも実にもすべての部分に組み込まれた遺伝子が存在します。そして、作物のすべての部分でこれまでにないたんぱく質を作っています。つまり、遺伝子組み換え作物を食べ続けるということは、これまで食べることのなかったたんぱく質を長く食べ続けるということになります。その影響は分かっていません。メーカーや国では、これまでアレルギーの報告がなかったから安全だと言っていますが、そのたんぱく質を長期間食べ続けることがこれまでなかったからアレルギーなどの報告がないのであり、本末転倒です。
 第一、遺伝子の働きやふるまいについては、まだまだ研究途中です。機械のようにすべての働きや動きが分かっているわけではありません。将来思わぬ被害を受けないと誰も保障できないのです。

●大豆畑トラスト運動
 大豆の自給率は4%程度しかありません。輸入大豆は、人間の食用のほか、油をしぼったあとの大豆かすは家畜のエサや肥料としても使われています。
 遺伝子組み換え技術は、家畜飼料や油など大量につかう作物を対象にしてきました。そして、日本は、大豆やトウモロコシ、ナタネなどを輸入にたよっています。つまり、海外で生産された遺伝子組み換え作物の多くは日本に輸出されると考えられます。そこで、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは、遺伝子組み換え作物に反対する運動に加えて、国内で安心できる大豆などをつくる運動をはじめました。その第一弾が大豆畑トラスト運動です。
 大豆畑トラスト運動は、信頼できる生産者や自分たちで畑に大豆を植え、できた大豆を分け合って食べることで、国内の自給率を少しでも上げ、輸入大豆に頼らないようにしようという運動です。消費者のグループが、生産者と提携したり、自分たちで畑を借りて植えたりと、全国各地でさまざまな形の取り組みが続いています。

 なにより、このしくみでは、基本的に作付けした大豆をすべて消費者が引き取るしくみになっています。大豆は、そのままや味噌などに加工されて消費者の手に渡ります。そのため生産者も安心して大豆をつくることができます。

■遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」が提唱している大豆トラスト運動は、全国で生産者と消費者を募集し、それぞれの生産者を中心に消費者と結びつきがつくられています。市民が大豆生産地の一定区画にお金を出し、生産者とともに大豆を作り、できた大豆を食べるという運動です。一般に、1口10坪とし4000円位となっています。
 有機大豆の生産が、山形・福島・茨城・千葉・静岡・長野・愛知・石川・広島・福岡など全国50カ所以上で行われ、消費者は自分の近くの生産地に参加しています。
事務局:日本消費者連盟 大豆畑トラスト係
〒152-0002  東京都目黒区目黒本町1-10-16
電話 03-3711-7766 FAX03-3715-9378
e-mail: nishoren@jca.apc.org

■熊本県水俣市(田援プロジェクト)
 前々号のねもはもで登場した熊本県水俣市の久木野では、「田援計画(でんえんプロジェクト)大豆耕作団」を募集し、棚田での大豆作付けを生産者と消費者で行っています。目的は棚田の保全ですが、大豆トラストに共鳴してはじめられており遺伝子組み換え大豆に対して、自分や自分がよく知っている人が育てた大豆を食べようという意味も含まれています。こちらは、1口5000円で、40平方メートルから穫れた大豆が基本配当です。なお、2000年は1口4.5kgの実績だったとか。
問い合わせ先:愛林館(月曜休館)
〒867-0281 水俣市久木野1071
Tel0966-69-0485 FAX69-0650
http://www2.ocn.ne.jp/~tanada/

■農と食の環境フォーラム
 農と食の環境フォーラムでも、1999年より多摩地区などの都市生活者10世帯と秋田県山本郡の有機農業生産者と提携して大豆畑トラストにとりくみました。生産者からは1カ月に1度お手紙をいただき、それを参加者に電子メールでお届けしたり、ホームページで写真を掲載して様子を伝えました。こちらは、大豆トラスト運動に賛意を示しつつも、身近では栽培に関われない人にも参加してもらおうと考え、生産には関わりません。もちろん、希望する方は産地と連絡をとって大豆畑を体験することができます。
 いずれは、生産者と参加者との間で、自家製味噌の味見比べなどをやりたいと考えています。

農と食の環境フォーラム版大豆トラスト

生産者は、秋田県山本郡の山本開拓農場・土橋敏郎さんです。土橋さんは、米づくりが中心ですが、「大地(田んぼや畑)はキャンバス、種子は絵の具、道具と自分の腕は絵筆。自分の作品(作物)はNo1ではないかもしれない。だけど、自分の作品は世界にひとつ。それをよりどころに、ままにならない自然相手に、自分流の作品作りをやってまいりました。これからも描き続けます」という方です。人に頼まれた田畑で大豆も生産し、味噌にして生産・販売されています。大豆は、無農薬。品種はリュウホウ。作付けは6月20日頃、出荷は、収穫して一応の選別をかけた状態で、12月はじめになります。
1口=2kg、1200円から何口でも。
事務局(多摩市)に大豆を取りにこられる方、または、相談の上、事務局の人間が車で届けられる地域にお住まいの方は、1口から申し込めます。事務局は遠いという方は、最低5口=10kgを近隣で集めて、一括して申込みください。
生産者からのお便りや連絡は、電子メールで行います。

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