土をもっと知ろう・番外2 薬食同源
成田 国寛

「ただよし、野菜をとらにゃあ、だちかんぞ〜」
 このフレーズを覚えている人は、なかなかの通の人である。実はこれ、昔のカゴメ野菜ジュースのCMで、畑にいる農家のお母ちゃんが離れて暮らしている息子に「体のために野菜をしっかり食べなさいよ」と呼びかけた台詞である。余談だが、「だちかんぞ」というのは名古屋〜金沢周辺の方言で「だめだ、いけない」という意味。私も子供の頃は、よく言われたっけ。その頃の私は、実家でとれたキャベツの千切りをドンブリ盛りにし、喜んで食べていた子供だったので、わざわざ野菜をジュースにして飲むなんて変なのと思いながら見ていた記憶がある。
 最近では、ますます野菜を食べる量が減ってきているのか、厚生省が自ら「成人病予防のための食生活指針」というものをつくり、成人で1日あたり300gの野菜を摂取するよう呼びかけている(300gのうち100gは緑黄色野菜、200gは淡色野菜)。指針では「生野菜、緑黄色野菜でがん予防〜生野菜、緑黄色野菜を毎食の食卓に〜」「食物繊維で便秘・大腸がんを予防〜野菜、海藻をたっぷりと〜」と効能も明記しているほどである。まさに野菜摂取は高齢化社会を目前にした現代人のお題目となっている。

天地無用
 さて、社会に出てからのことである。ある日ちょっと気になることに出くわした。「緑黄色野菜は危ない!?」という記事である。タイトルを見たときは、「オイオイ、また高濃度の残留農薬でも検出されたのか?」と思いつつ読み進めてみると全くの見当外れであった。緑黄色野菜、特にホウレンソウやレタスなどに「硝酸塩」というものが多く含まれていて、体の中で亜硝酸塩に変わり、こいつがいろいろと悪さをするとの指摘である。魚に含まれるアミンとくっつくとニトロソアミンができてガンになりやすくなるとか、欧米では亜硝酸塩の毒性により乳児が死亡した等々、緑黄色野菜をたくさん食べることは実は体にとって危ないという内容だった。
「これまで野菜は体に良い良いと耳タコになるほど聞かされ続けてきたのは何だったんだ。国も野菜を摂るべしと言ってたじゃないか」まさに晴天の霹靂だった。当時は、マスコミ報道を検証もせず単純に鵜呑みにしていたので、野菜を見るたびにこれは大丈夫かなと気になる日々が続いた。

地固まる
 ある時、何かのきっかけで世界保険機構が野菜中の硝酸塩について調査をしていることを知った。併せて関連資料も取り寄せて読んだ結果、先の記事内容は一部の事実のみを誇張して、多くの関係ない野菜たちまでも推定有罪にしていることがわかった。
 野菜には、多少なりとも硝酸塩が含まれているが、過剰摂取しない限り野菜を食べる利益の方がはるかに大きく、極端に不安がる必要はない。硝酸塩の摂取と発ガン性に関しても、疫学的な因果関係は十分に認められていない。もちろん、すべてが解明されたわけではないので、硝酸塩の少ない野菜が流通することが望ましいのは事実。特に3カ月未満の乳児に対して、硝酸塩含量の高い井戸水や野菜を多量に与えてはならない。血液が酸素をうまく運べなくなるブルーベビー症になる恐れがある。
 ところで野菜中の硝酸塩含量は、同じ品種であっても生育条件の違いによりかなり変動する。育ち盛りの時期に収穫する葉菜類は生理的に硝酸塩をためやすいため、有機無機にかかわらず施肥が多く曇天が続いたりすると濃度が高くなる。特に、多肥になりやすく日照量も少ないハウス栽培では顕著となる。栽培した野菜の成分がどれぐらいなのか時々分析してみることも、土を知ることと同様、より良い栽培体系へと移行するきっかけになるかもしれない。農家の方々より、家庭菜園をされている人の方が施肥量がどうしても多くなるため、より注意を要する。ただ、最近では内容品質や環境保全重視のため、野菜の生理にあった効率的な施肥技術が各地で導入されはじめるなど徐々に状況は改善されてきている。このような技術がもっともっと広がってほしいものである。
 ちなみに、旬の野菜はじっくり生長するため栄養成分が高まりやすいことはよく知られているが、逆に硝酸塩含量は低くなることは案外知られていない。旬の野菜の良さはここにもある。

 さて、話があっちこっちに飛んでしまったが、親から「野菜をしっかりとらにゃあ、だちかんぞ」と言われる前に、今日も新鮮な野菜を美味しく食べるとしよう。

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