北海道新規就農者の農楽だより
作付けシーズン到来

藤田京子

 4月、北海道にも遅い春がやってきた。雪が融け畑が乾くのを待って、農村地帯では、一斉にトラクターによる春起こしの作業が始まった。我が家でも、ようやく自分の畑が決まったのにともない購入した中古のトラクターが動き始めた。
 北海道に来て3年目。これまでも研修生という肩書きながら、1年目に2反、2年目に1町の畑に取り組んできた。今年はいよいよ「新規就農者」として中富良野町の認定を受け、認定の条件である最低耕地面積の2町の畑を相手にすることになった。
2町といえば、2ヘクタール、約6,000坪である。北海道に移住する前、埼玉で農業研修していたときには、2町の畑と聞けば、いや1町の畑でも「広い!」と感じていた。
 ところが、北海道といえばやはり大規模農業なのである。我が家のある地区では、1戸あたりの畑の面積は、おそらく平均で15町くらいだと思う。畑が「小さい」農家でも5町くらいはある。そんな状況の中で、私たちも地元の人から「畑はどれくらいあるの?」と聞かれると、いつからか「うちは2町しかないんです」と答えるようになってきた(でも、2町は広い、と心の中では今も思っている)。

 さて4月末、今年一番の作付けはじゃがいもの植え付けに始まった。我が家では、借り物のテーラー(管理機)で蒔き溝をつける以外は手作業。一度に20kgの種芋を背負い、一つずつ手で蒔き溝に落とす。3反の畑にまく種芋約600
kgを背負うのは楽ではないけど、それでも一日で終えることができた。そんな私たちを後目に、隣の畑では「プランター」と呼ばれるじゃがいもの植え付け機が動いていた。この機械は、蒔き溝つけから、施肥、種芋落とし、覆土まで全て一度にやってしまう。私たちが1日がかりでする仕事をものの1〜2時間でやってのけるのだから圧倒される。
 じゃがいもの次に、たまねぎの定植作業が続いた。ビニルハウスで育てた苗を、1本1本畑に植えていく。今年は育苗がうまくいかず、半分はご近所の苗をわけて頂いて植えることになってしまった。この辺りでは、たまねぎの定植は「出面(でめん)さん」と呼ばれる農作業アルバイトの女性を何十人も雇って行われるか、最近では主流となりつつある機械定植が一般的。私たちが夫婦二人だけでせっせと植えている日も、同じ地区のある畑では20人ちかくもの出面さんが一斉に苗を植え、また別の畑では機械があっという間に定植していた。でもなるべくお金をかけない農業をめざしている私たちは、二人でやるしかない。数日がかりで定植を終えた。

 一年に一作の北海道では、春のこの時期に植え付け作業が集中する。じゃがいも、玉ねぎに続き、にんじん、かぼちゃ、ビニルハウスでつくるミニトマトのほか、諸々の自家野菜。ほっとする間もなく、次から次へと作業に追われる毎日だ。連日、早朝から日暮までびっちり働くと、夕刻には体もずっしりと疲れる。それでも、その疲れの中には何とも言えない充実感があり、「ああ、今日もがんばって働いたな」と思える心地よさがある。冬の間行っていたアルバイトでは、仕事が終わると「ああ疲れた」という消耗感だけが残っていたのとは対照的だ。この夕方に味わう充実感がまた、私たちにとっては「農業っていいな」と思えるものの一つだ。とはいえ、体がくたくたになると、晩ご飯を作って食べ、お風呂に入って寝るのがやっと、という状態できれい事ばかりも言っていられないけれど。

 今年は作付けシーズンに入った4月末から晴天続きで、とにかく雨降りの日がほとんどない。仕事は進むが、干ばつで、発芽不良などの被害も出ていると聞く。昨年は、降る時は何日も雨が続き、晴れるときは連日晴天という極端な天候だった。今年もまた天候不順なんだろうか。畑に植え終わった苗を眺めると、「秋まで無事育ちますように」と願わずにはいられない。

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