倉渕村就農スケッチ・5「芽吹き」
和田 裕之、岡 佳子

あすからは若菜摘まむとしめし野に
昨日も今日も雪は降りつつ(万葉集 巻8)


 今年の春はとくに気温が低いようです。彼岸過ぎ、一昨年はこの時期に庭で春一番のよもぎを摘みましたが、今年はまだ摘めるほどではありません。よもぎパンを焼くために烏川の土手で摘んできました。そこは同じ倉渕村でも、うちより標高が300mくらい低く少しだけ春が早くやって来るのです。

山の畑(やまのはた)ひとあめごとに芽吹きくる
凍てし大地の眠りから覚めて


 3月末、畑から見る浅間山はまだ白く雪をかぶっています。桜の開花はもう2〜3週間先になりそうです。育苗用のビニールハウスの中は、まだ氷点下になります。畑には冬越しのほうれんそうとにんにくの葉が青々と映えています。この冬越しのほうれんそうがあまくてとてもおいしいのです。

 4月も中旬に入ると、早朝からうぐいすがよく鳴いています。時々この声に起こされる日もあります。うぐいすの声を裂くように雉もよく鳴きます。

葉三つほどの小さき苗を今日植える
吾子(あこ)の成長見守るように


 サニーレタスとチンゲンサイの苗が一斉に定植を迎え、大変やらうれしいやらの今日この頃です。特に雨の降る前の日などは、定植機械のように同じ作業の繰り返しです。
 春一番で蒔いたサニーレタスの定植が進むと、赤や緑の小さなフリルが畑に広がります。春菊も黄緑の小さな双葉を並べています。大きく育って皆さんの食卓に届くのは5月の下旬になるでしょうか。強い霜が降りないことを祈るばかりです。
 その他、畑には小松菜やレタス、にんじんや大根と次々に種が蒔かれ、5月から7月にかけて収穫をむかえます。冬の間3カ月休んでいた畑の土は、この春を心待ちにしていたよう。小さな苗や種をグングンとおいしい野菜に育てあげていきます。
 倉渕村の標高700メートルのところにある私たちの畑。ここでは、冬の間は土が凍ってしまうので作物がとれません。まるで蝉のからのように硬いからに包まれてしまいます。でも地中では、土や微生物やミミズなどの小動物たちが力を蓄え、その季節(とき)を待っているのです。春になると硬い土のからをやぶって、野菜たちが次々に芽吹き、葉をいっぱいに広げて、ぐんぐん大きくなります。

自らの手で一粒の米植える
父の後ろ背(うしろぜ)思い出でつつ


 4月も下旬になると稲の苗作りが始まります。昨年とれた籾米を約1週間水に浸し二晩おふろの残り湯につけて芽出しをしたものを、育苗箱に山土と少量の肥料(ぼかしや平飼い醗酵鶏糞)を混ぜた培土に蒔きます。3日目ころに白いちいさな芽が伸びてきます。それがとてもかわいいのです。これから日に日に青く、大きくなっていくでしょう。
 そこで、このあいらしい苗を植えてみたい方大募集!田植えの日はまだ未定ですが、6月の第1週か2週目の土、日曜日を考えています。どうぞふるってご参加ください。田んぼの畦で飲むビールの味はそりゃあもう格別ですよ!

(岡 佳子)

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