大発見!
これが最も簡単な無農薬栽培の方法だ

潮田 和也

無農薬で栽培することの一番の敵はなんだろう?
虫か?病気か?イノシシか?
無農薬栽培とは、実は経済との戦いなのである。


 畑を面積の単位として、何反、という数え方がある。1反は、10アール、300坪のことである。土地付き一戸建てで30坪の家に住んでるブルジョアな僕は(30年ローンで通勤2時間ではあるが)近郊だと平均的な家の部類だろうが、その10倍が1反である。
 1反の畑が10枚分あると、1町という広さになる。これは、要するに1ヘクタール、100メートル四方の広さである。
 日本の農家は、だいたい、一件あたり、2町の農地をもっている。田んぼも入っているが、これくらいないとやっていけない。
 ちなみにアメリカでは平均でも農家一件100町の農地を持っている。アメリカのある農家は世界地図を広げ、「ここからここまでが俺の畑だ」と説明したらしい。何しろ、朝、トラクターで畑を耕しはじめて畑の反対側に着く頃日が暮れて、ホテルに泊まって次の日戻って来るほど広いらしい。

 例えば僕が、1反、つまり300坪にレタスを植えることにしよう。
 だいたいレタスだと、1反に5000個くらい作るつもりで苗を植える。
 畑を買うのは大変だから畑を借りるとしよう。恵まれた畑(土地の力があったり、水をやったり水はけの設備が整っているような)は、普通、借りると、賃料は年間、1反2〜3万円くらいだろうか。300坪で2〜3万なら安い!私も借りよう!と思うだろうが、法律上「農地」なので残念ながら家を立てたり駐車場にしたりできない。
 山間の畑とか、水に不便な畑なら5千円くらいで借りられる場合もあるし、人手のない農家が、何も作らないのも畑にとって良くないから、とタダで貸してくれる場合もある。
 ここにレタスを植えるとしよう。種を5000粒で2千円くらいで買って苗をつくる。堆肥を3トンくらい入れる。堆肥を自分で作る手もあるが、とりあえず知り合いの作った物を3トン1万円で買おう。
 1反だけなら、あとは自分でがんばれば、大してお金をかけなくて作れるわけである。
 5000個植えたレタスだが、虫にやられたり、病気になったりして、結局は4000個になってしまったとする。
 それが、ある八百屋が一個100円で買ったとしよう。売り上げ40万円。でも箱詰めの箱がいる。一箱には20個ぐらい入る。箱代が、一個100円として、200箱くらい必要だから全部で2万円。売り先まで届けるのに、運送会社のうんと安い便を使って1箱200円。全部で4万円。
 40万の売り上げだけど、10万円は経費で使った。でも30万円残った。もうけた、ラッキー!
 でも、これは1反だから一人だけできるが、年間30万円ではいくら安月給に慣れている僕でも暮らすのはきつい(ローンもあるし)。
 じゃあもっと稼ぎたいから10倍の1町にしよう。
 全部レタスを作ったとして、1反あたり4000個、全部で4万個できるとする。
 一人だけの力ではまずできない。まず、機械がいる。耕したり、苗植えたりするのに小さいトラクターを中古を100万円で、農地に行ったり、収穫した野菜を運ぶのに軽トラックを100万円で分割で買った。
 収穫や箱詰めにパートも雇った。病気や、虫の対策にいろんな農業資材を買った。
 なんだかんだ、レタス40000個は一個100円で売れて400万円になったが、経費が200万円かかった。
 こんな感じで、作物をつくろうと思ったら、だいたい売り上げの半分、あるいはそれ以上の経費がかかるのが普通の農業である。
 そして、普通の路地の畑の作物だと、1反あたり一年で40万売り上げるのはかなりうまく行った方である。
 だから1反40万円稼げて、経費が半分で済んだとして、もし年間500万円手元に残そうと思ったら、2町5反の畑を運営する必要があるのである。
 2町5反といえば東京ドームのグランド2枚分である。これだけの畑を運営していけるのは、もうそれだけで、農業のプロである。雇用者に教える知識もいるし、マネージメント能力も必要なのである。
 僕が明日から農家になったら、まず、最初の年は3反もできない自信がある!(自信持つな)
 何しろ手で除草をしたら、一列(1反ではない)往復するだけで次の日、立てなかったほどだ。(自慢するな)
 2町5反の畑を満足に運営するのには10年以上かかるだろう。
 1千万円を手元に残そうとおもったら、5町の畑で売り上げ2千万円以上売る必要があり、これだけの経営ができる農家は、会社で言うと重役クラスの能力といっていい。がんばって重役になったのに1千万円稼げない世界で、若者が跡を継ぎたがるだろうか。

 さて、簡単な無農薬の方法、それは、一反5000個植えれば、どんなにひどい病虫害にあっても、きっと僕でも100個ぐらいはまともにできるだろう。(たぶん。)だから、レタスを1個、4千円で売れば、40万円の売り上げで、間違いなく無農薬栽培でやっていける!
 あるいは、病害や虫害のなさそうな大都会、たとえば銀座コマツビルの土地1平方メートル1310万円の土地で、5玉くらい栽培して一個300万円のレタスをつくってもいい。
 ビル・ゲイツだったら買ってくれるかもしれない。
 実際に、無農薬で栽培すると、5000個植えたものが
3000個程度しかできないことはザラである。普通に農薬、化学肥料を使えば、4000〜4500個位できるだろう。
 野菜はスーパーで売っている値段の、半分以下が農家の手取りと考えていい。そうするとレタスがスーパーで200円だったら、農家は100円以下で売っていることになる。しかしスーパーで100円で売っている時は、農家は
50円。4000個作っても、売り上げが20万円。
 経費だけでぶっ飛んでしまう。無農薬栽培にとって最もオソロシイ敵は、経済なのであった!

 最近はもっとオソロシイことになっている。
 先日テレビで、中国の、中国雑伎団という人間技と思えない演技をするサーカスについて放映していたが、その雑伎団の団員を目指す女の子の家は農家で、年収が3万円だった。
日本では、パチンコで大負けした、と騒ぐ程度の金額が年収の国でつくる農産物がいったいいくらなのか、恐ろしくて調べる気にもならない(資料がなかったんだが)。そういう国から農産物がどんどん入ってくる。
 そしてその輸入の野菜が、野菜全体の価格を引き下げている。害虫よりオソロシイことである。
 安売りするスーパーが採算を度外視して隣の店をつぶすように、日本の農業がつぶれないように、日本の野菜を、高いと思わないで買っていただきたいものである。

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