リトル・タジャン・プロジェクト活動報告
2005年4月、再訪。台風後の現状


鈴木敦





 2005年4月下旬、6カ月ぶりにリトル・タジャンを再訪した。昨年12月に北ルソンを連続して台風が上陸し、1500人以上の死者・行方不明者がでた。農作物にも大きな被害をもたらし、CORDEVのバナナ事業も壊滅的な打撃を受けた。リトル・タジャンでは大きな被害はなかったが、CORDEVはバナナ事業再建に忙しかったこともあり、リトル・タジャン再訪が予定より遅くなった。
 CORDEVの事務所があるソラノ周辺では、すでに台風被害の爪痕はほとんど見られなかったが、所々で大木がなぎ倒されており台風の威力を感じた(写真)。グレッグの家の近くにある川では、流木が橋に蓄積しダムとなり洪水が発生したが、幸いなことに橋が短時間で崩壊したため床上浸水となったもののすぐに水が退き深刻な被害はなかったとのことであった。







 この時期は乾期の真っ直中で、日中の暑さもさることながら日差しが強烈である。早朝でも太陽が登りはじめると同時に日差しの強さを感じるほどである。乾期のリトル・タジャンで良いところは道路の状態が良いことと蚊が少ないことである。今回はほとんど蚊に刺されることはなかった。しかし大きな問題は水不足となることである。この時期使用可能な井戸は限られ、水汲みは時間的にも労力的にも大変である。ここ2週間ほど雨は降っておらず、周辺の植物の多くは枯れ、次の作付け準備としてトウモロコシ畑、コゴングラスの草地には火入れがなされ一面茶色または黒といったものであった。(写真)










育苗場の上に突き出てしまった苗。育ちすぎだ。 小屋づくり2日目。何もないところからここまでできる。


 育苗場は健在であり、前回移植時期となっていたジミリーナの苗はすでに植林され、マンゴーの苗500本も関心のある人に提供したとのことであった。しかし育苗場にある苗の中には天井のネット突き破り生長しているもの、また水不足で枯死寸前のものも見られ育苗場の管理が十分に行われていないように思われた。
 今回は育苗場の横に、生長した苗の置き場、播種等の作業場、集会場等を兼ねた多目的作業小屋の建設が行われた。柱となる材木、屋根の骨組み用の竹、屋根用のコゴングラスは現地調達で購入したのは釘と針金であった。7人のメンバーが作業に当たり、2日で完成。皆若い人たちなのに、強い日差しをものともせず、伝統的な手法で手際よく作業するのには感心した。

 夜には活動の評価のための会合が持たれた。9名のメンバーが集まり、ジュリオス氏とノリト氏(CORDEVスタッフ)が進行役を務めた。育苗場については十分な管理ができていないことを皆自覚していた。理由として、忙しくてなかなか時間がとれないことがあげられていた。また管理作業に参加しないメンバーもいることも問題となっているとのことであった。これは主に昨年6月に加わった新メンバー14名のことであり、今回の会合に一人も参加しておらず、参加者は全員プロジェクト開始からのメンバーであった。新しいことには危険を恐れ挑戦しないが、うまくいっていると分かると追従する者はどこにでもいるものである。この件に関して意見を求められたが、自主的な運営を促すため、「グループ内の問題はメンバー間の関係や集落内の関係を壊さぬよう自分たちの方法で解決してほしい」と答えるにとどめた。グループのリーダーであるマニエル氏は、「これからはメンバー全員に対して積極的に参加するように働きかけていきたい」とのことであった。
 つぎにメンバーの関心が最も高いマンゴーについて、以前に移植した苗の生存率が低かったことがあげられた。原因としては水不足によるものがほとんどであり、ほぼ全ての苗を生存させたエミリオ氏より、「移植は雨期にすべきである」との極めて基本的なアドバイスがあった。これまで移植についてあまり注意を払わなかったが、時期、場所の選定、移植後の管理方法など共有化が必要と思われた。マンゴーの接ぎ木に関しては。前回処理を行った苗は全滅とのことであり、その要因として技術の未熟さ当然のことながら時期の選定や道具(ナイフ等)の不備ではないかとのことであった。第2回接ぎ木講習会の必要性については、ジュリオス氏から年内に行いたいとのことであり、今回は専門家に適期を聞いてスケジュールを決め、専用のナイフ等を準備するとのことであった。こちらからはまず4〜5名に集中的に技術を習得させ、その後他のメンバーに普及させるようにしては、という提案をした。

 このように育苗場プロジェクトにはいくつかの問題はあるが、会合に参加したメンバーは皆このプロジェクトの目的・意義をよく理解し、強い関心・期待を持っていることから、これらの問題を解決していくことを期待したい。



 牛預託飼育プロジェクトは大変好評で、昨年4頭導入し合計9頭の牛は元気に成長していた。最初に導入した5頭は繁殖可能な月齢となり、現在種雄を探しているとのことであった。
 預託牛管理のような個人でできる作業には熱心であるが、我々の訪問に合わせた共同作業以外の日常の育苗場管理等についてはまだ順調に運営されていないようであった。各人の意識の問題といえばそれまでだが、年2回のトウモロコシ栽培をほとんど機械を使わず手作業で行う中で、なかなか時間が取れないと言うのも事実であろう。また電話がないため簡単には連絡取れないことや各人の家が散在し交通手段が限られていることも共同作業運営上の制限要因になっていると思われた。

 今回の訪問から、このようなプロジェクトを維持継続していくには、現地での生活様式を知り、人々と意見交換を通して適正な技術を選択・改善していくことの重要性を再認識した。そこで最初に育苗場の水やりの簡素化を考えていきたいと思った。育苗場を作る際にグレッグ氏より水やり用にポンプの導入が提案されたが、小面積でありじょうろによる水やりでも十分だろうとことから採用しなかった経緯があった。しかし人々の日々の生活や農作業の実態を知るにつれ、グレッグ氏の提案の意味が分かるようになった。各家庭で使用する水の確保も大変な時期は、苗への水やりは面倒に思うであろう。幸いにも育苗場のすぐそばに乾期でも枯れない井戸があり、できるだけ設備投資を必要とせず、維持管理が簡単な方法、井戸と育苗場間にある若干の高低差を利用した方法等、を検討し提案したいと思う。
 このグループが共同作業を自主的、円滑に行えるようになるには、もう少し時間がかかるであろう。それまでは我々の訪問が共同作業や会合を開くきっかけの役目も負うことになると思われた。



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