しずみんの まう・まかん
お題:もりもりバリごはん3



水底 沈





■バリならではの食材
いよいよ料理教室の日。張り切って朝から出かける。日本食居酒屋「影武者」の一部をお借りして、午前のさわやかな風の吹く中、イブ・ユミ(「イブ」はミセス、マダム、お母さん、などの意)にスパイス類や調味料などの説明を受ける。
バリの台所や市場で感じるのは、「しょうががいっぱい!」ということだ。あらゆる料理の基本調味料になるペーストを作る時、かならずしょうが的なものを何種類か使う。よく見ると色や大きさも違い、香りもそれぞれ個性的な別々の「生スパイス」なのだが、しょうがの仲間が一番活躍するのだ。インドカレーでもおなじみのターメリック(うこん)、樟脳のようなさわやかな香りが独特なチュコー(ばんうこん)、大きくてタイ料理にもよく使うイセン(なんきょう)、日本のしょうがに一番近いけれど、半端じゃなく辛いジャエ(しょうが)、などなど。特に、チュコーはバリ料理独特の香りをつけるのに欠かせないもので、この香りを嗅ぐと、バリに行ったことのある人は懐かしく感じるはずだ。
他にも、唐辛子が数種類、小さな紫たまねぎや小粒の在来品種のにんにく、柑橘類の皮や木の葉など、バリ料理のスパイスには生のママすりつぶして新鮮な香りを楽しむものが多い。これは、なかなか日本では再現が難しい。タイ料理の食材を扱う店なども増えてきたが、ここまでそろうのは現地ならではのぜいたくだなあ、と思った。
これらのスパイス類を使い、味の基本となるペースト「バソ・グデ」を作る。平たい石鉢に、まず粗く刻んだしょうが類を置き、クローブやナツメグなどの乾燥したスパイスをふりかけて、これまた石のすりこぎで叩きつぶしていく。生のスパイスに乾燥したスパイスをなじませることで、すべりにくく、なめらかにつぶしていくのだ。ごーりごーりと手首のスナップを利かせてペーストにしていくのだが、繊維質の多い生スパイスがなかなかなめらかにならないので、汗がだらだら出てくる。味の決め手の「基本みそ」を作るのは、なかなかホネなのだ。しかし、これさえ作れば、和え物でも炒め物でもスープでも、なんでもこいなのだ。日本で言うところの「八方だし」「めんつゆ」のようなものかな?かなり刺激的ではあるが…
このペーストを使って、トマトと鶏の和え物や、わらびみたいな山菜の和え物、バナナの若い茎のスープ、魚と海老の包み焼きなどを作る。バナナの若い茎、というのは、バリならではの食材だ。すかすかと繊維が多く、理科の時間に習った植物が水を吸い上げる管「道管」「支管」などが拡大されてよくわかる感じのもの。筒状のこの「野菜」を小口切りにして塩を振り、しばらく置くと水分が出てしんなりしてくる。これをスープに使うのだ。しゃきしゃきして噛みごたえがあり、不思議な野菜。日本だと何に似ているだろう?

■なんだか日本に似ているぞ
「ペペス」という調理法がある。バナナの葉に、魚やえび、挽き肉などを包んで蒸し上げるおかずで、中に香り高いハーブ類や、くだんの辛いペーストなどが入る。蒸した後にさっと表面をあぶって香ばしさも付け加えた、なかなかおいしく繊細な料理だ。白身魚を叩いたものなどがポピュラーらしいが、この日はまぐろのブツ切り、小えびで作った。葉の真ん中に魚肉とえびを置き、ペーストや香りのいい葉っぱを置き、もう1枚バナナの葉を使って、細い竹ひごで縫うようにしてとめる。できあがりは、おにぎりの様な三角形だ。日本で言うと、ちまき的な風情。
これを日本で作るなら、竹の皮や笹の葉を使い、山椒や青じそ、ゆずこしょうなどの香りで仕上げて、ゆずをぎゅっとしぼって…などと考えたら、なんだかバリ料理がぐっと身近に思えてきた。無理に現地の食材を揃えようと思わずとも、あるもので、おいしくアレンジして再現するのも旅の思い出のうまい利用法ではないかと思う。何しろともに、ごはんの国だ。どのおかずも、ごはんによく合う。観光客向けの「よそ行き料理」に比べると、野菜の量や種類もぐっと豊富で、繊維たっぷり。そしてもたれない。気温や湿度が高い分、魚や肉などの傷みやすい食材の調理には、殺菌・腐敗防止効果のあるスパイスやハーブを上手に利用している。住んでいる人たちが食べている食事は、ちゃんと理にかなった料理法でととのえられているものだ。
バリの小さなキチンで教わった「アジアごはんのこころ」を忘れず、日本の台所でも「うちのごはん」に活かしていこう、と思ったのだった。


■dapurBALI(ダプール・バリ)
http://www.dapurbali.com/
毎週 水曜日・土曜日 9:00〜13:00
1名$40(最小催行人数2名)
2004年12月現在



  



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