持つ者、持たざる者

成田 国寛



■赤いダイヤ、狂想曲
 韓国1万6000人のイチゴ生産者にとって2008年は受難の年になりそうである。
 イチゴ好きな国民性もあり、韓国内ではイチゴ栽培が盛ん。栽培品種をながめてみると、「レッドパール」「章姫」「とちおとめ」など、生産量の7〜8割は日本の品種である。
 イチゴは栄養繁殖で増やせるので、親株があればコピーは至極簡単。日本から正規に輸出されている苗もあるが、無断で増殖した苗を用いている農家も少なくないといわれている。
 韓国ではイチゴの育成者権(※特許や著作権のようなもの)の保護が不十分な点もあり、日本のイチゴを無断で増殖・栽培しても今のところ問題はない。品質がよいことから韓国内の市場でも引っ張りだこだし、代替となる品種も少ないので作る方もすぐにやめられない。
 しかし、韓国が2002年に国際植物新品種保護連盟に加入したことをうけて、2008年以降は外国のイチゴ品種を栽培するためには使用料を支払わなくてはならなくなった。
 あわせて無断で栽培されたイチゴに対し日本が関税定率法などで輸入を制限し始めたことから日本向けの輸出が激減し、韓国内の需給バランスがくずれ価格も不安定に。零細なイチゴ生産者が多いなか、使用料の負担が経営を圧迫するという危機感が漂い始めている。
 韓国のイチゴ生産者は対応に追われると共に、2007年より交渉がはじまる使用料がいくらになるかが次の焦点となっている。

■品種保護Gメン登場
 イチゴは隣の国の問題だからと安心してはいけない。
 日本でも2003年に種苗法が改正され、育成者権が大幅に強化されている。育成者権の存続期間は、登録の日から20年(永年植物は25年)と延長され、育成者権のある品種の栽培には原則として育成者の許可が必要になった。許可なく増殖・販売・輸出をしたら罰金の対象だ。
 植物新品種の保護に関する研究会の議事録を見ると、生産者による自家増殖の制限、加工品にも育成者の権利を及ぼすなど、さらなる育成者権の強化を盛り込む方向で話し合いがもたれている。この研究会の報告を受け、次の種苗法の改正が近々行われる予定である。
 この春、つくば市の種苗管理センター内に品種保護対策官(植物品種保護Gメン)が設置された。今のところ、育成者権者などからの権利侵害に関する相談などに応じる窓口業務がメインとなっているが、自家採種・増殖してきた生産者にとっても他人事ではない。何も知らずに譲り受けた種苗が問題になることもあるからだ。
 ニッポンが進めている知的財産立国の流れとはいえ、今後の動向には要注意である。

【参考1】 韓国では日本の種苗法に相当する種子産業法を2001年に制定。対象作物に対して専用利用権を付与している。これまでイチゴは対象外であったが、2006年から品種保護対象作物となる予定。それをうけて農産物知的財産権センターを独自に持つ福岡県もイチゴの主力品種「あまおう」の登録の検討を始めている。

【参考2】 日本の種苗法上、登録品種の種苗・収穫物の利用には、原則として育成者権者の許可が必要。ただし、現状では生産者が正規ルートで種苗を購入し収穫物を次作の種苗にする場合は、例外的に育成者権者の許可なく利用が認められている。しかし将来的に登録品種の自家増殖は難しくなる方向にある。
 熊本県農業研究センターのホームページ上にも次のような一文が掲載されている。
「イチゴを栽培される生産者のみなさまへ〜途中省略〜
育成した人(育成者権者)の許諾無しに栽培し、その苗や果実を販売することは、種苗法で禁止されていますので、現在栽培している品種が育成者の許可を得ているものか確認し、育成者権を侵害しない適正な栽培に取り組みましょう。…」

【参考3】 埼玉の野口種苗さんがおもしろいコメントをしていた。登録されていない品種、登録期限がきれた品種には育成者権は発生しないので、自家採種には在来種など登録されていない品種に注目とのこと。




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