戸沢村角川だより6
カタユキの頃の里山遊び〜子どもたちのケッツスベリ


出川真也



 4月になるというのに、例年になく雪の残る春となりました。周辺の山々はまだまだ白く雪に覆われ、裏山の田んぼはまだ1メートル(!)の積雪の下にあります。今年は農業の暦も大分遅くなりそうですし、山菜もいつ出るやら見当がつかないとのこと。里の大人はこの残雪に悩まされていますが、里の子ども達にとってはちょっと事情が違うようです。

 2月から3月にかけて、残雪は「カタユキ」となります。溶け始めの雪が夜の寒さで冷やされ凍り締まって硬くなる現象で、こうなるともうカンジキは必要なく、雪の上をどこまでもぬからずに歩いていくことができます。その上つるつると滑りやすいのです。今年は4月になっても(これを書いているのは11日)雪が1メートル以上も残り、いまだこのカタユキの状態が続いています。

 先日、まだ雪が残る里山で、もう時期が時期だということで、キノコのほだ木切りが行われました。なにぶん傾斜地でしかも雪の上での足場の悪いところでの作業、大人は大変な苦労をしています。そんな中、手伝いに来ていた子ども達は楽しそうに「ケッツスベリ」を始めました。
 ケッツスベリというのは、その名の通り「ケッツ」(お尻)で雪の上を滑っていくもので、里山の斜面がいわば「雪上滑り台」となります。これがまたよく滑ること! 100メートルも斜面を下っていった子もいます。ちょっと太ったお兄さん(もう25歳にもなる地域の青年ですが)は、腹ばいになって滑っていきました。彼が最長記録、200メートルほども下っていきました。
 静かな里山に、しばしにぎやかな歓声がこだまし、疲労した大人たちも楽しげに、その光景を眺めています。「まだ、芽吹かない、何にもない里山も、子ども達にとってはおもしろいもんなんだな」と作業に来ていた集落の長老さんがつぶやくのが印象に残りました。

 里において時に子ども達は地域の発見者であり、アイディアマンでもあります。地元学(地域調査の一つ。角川地区ではここ数年毎年のように行われています)でも、昔の道具を見つけたり、動物を見つけたりして目を輝かせて見入る子ども達。大人達は子ども達のフレッシュなまなざしと行動に驚かされます。大人達にとっては何気ないつまらないものが、子ども達にとってはまったく違ったものとして映り、大人の前に出される、まるで魔法です。「そういえば俺らもよく『ケッツスベリ』をして遊んだもんだったな」大人たちも子ども達からかつての村を思い出し、語り始めます。子ども、大人、おじいちゃん、おばあちゃんたち。世代間の目線の違いが里の姿を浮き彫りにし新しい発見を生んでいくようです。それが新しい里の地域づくりにつながっていけば…。

 4月、いよいよ里は芽吹きの季節です。どんな発見やつながり、展開があるでしょうか? 角川地区に住み込んで3年目。ヨソモンの私も新鮮にドキドキしているこの頃です。



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