どんなバナナがお好き?

成田 国寛



 高級バナナが売れている。
 1本200円もするバナナがである。
 このバナナ、昼夜の温度差の大きいエクアドルの高地で通常の倍以上の栽培期間をとり、有機栽培で育てたもの。ゆっくりと育て夜間の呼吸作用を抑えることで光合成産物を果実に蓄積させ、甘さとコクをだしている。さらに一番おいしいといわれる真ん中の2本のみを厳選し、アルコール処理でエグ味を消してまろやかにしているという。
 驚きの「こだわりバナナ」である。
 ちなみに、私が試食用に買うのは、5〜6本で200円前後のバナナ。ドール謹製のフィリピン産ハイランドバナナの「スウィーティオ」でも、その1.5〜2倍程度の値段である。
 ウソかマコトか、上記のこだわりバナナの糖度は23度もあるらしい。いったいどんな味がするのだろう。

 バナナはご存じの通り、青いうちに収穫し追熟させてから食べる果物である。日本にやってくるバナナは75〜85%の熟度で収穫されるので、港についてもまだ青いまま。果肉はかたく、タンニンの渋みも強くとても食べられたものではない。果肉中のデンプンも糖になっていないので甘くもない。
 初めてバナナ産地を訪問したとき、そうとも知らず青バナナをかじって渋面をしたら大笑いされた。そのときには、こんな渋い味でどうして味の良し悪しがわかるんだと不思議に思ったものだ。
 ちなみにタンニンが含まれるのは、果実が青いときに動物に食べられたり病原菌にやられないようにするため。種が熟す前に果肉を食べられたら、子孫が残せないので都合がわるいからである。しかし種のない食用バナナにとっては無駄な努力のように見えてしまうのだが、健気にも果実を守りつづけているのである。

「サアサア、門司港名物バナナのたたき売り。ご用とお急ぎでない方は、見ていらっしゃい、聞いてお帰り――」
 懐かしのバナナのたたき売りであるが、さすがに青いバナナは売っていない。ムロに入れて追熟させたバナナを売っているのである。その時に使うのが、植物ホルモンのエチレンガス。花咲じいさんが使う秘密の灰のようなものである。(注:もともとは輸送途中で熟れ過ぎたり傷んだバナナを売りさばいたのが、たたき売りの始まり)
 青いバナナにエチレンガスをちょいとふきかけると、果実中で急激に生化学的変化がおきる。果色や果皮の色がかわり、デンプンが糖に変わって果肉もやわらかくなりバナナ特有の香りが出てくるのである。バナナを守ってきたタンニンも不溶性となって渋みがなくなる。(この追熟に伴う果実の変化をクライマクテリック・ライズと呼ぶ)
 もちろんエチレンガスをかけなくてもバナナ自身がエチレンを出すのでゆっくりと熟していく。わざわざエチレンを使うのは熟度をコントロールするため。言葉は悪いが、スポーツ選手のドーピングみたいなものである。

 ところで、バナナのムロ管理には相当なノウハウがあるらしい。入庫時のバナナの品種やサイズ・揃い、さらには季節に応じても温度・湿度・ガス濃度の設定が微妙に違う。夏はやや青めで出荷し、冬は逆にやや色づいた状態で出荷する必要があるためである。追熟の仕方によって当然味がかわってくるし、棚持ちもちがう。
 そのあたりの秘密を一度職人さんに聞いてみたいのだが、残念ながらまだそのチャンスがない。いつの日か、家庭でバナナをおいしくするためのコツを聞いてみたい。

 さて、冒頭の1本200円のバナナが生まれた背景には、日本人の安全志向と甘さへのこだわりがあると思う。この競争はどこに向かっているのだろう。収穫直後は食べられず、エチレンなどで処理していることから「農産加工品」ともいえるバナナ、遺伝子も含めて変なドーピングだけは勘弁願いたいものである。



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