ドイツ風景〜お魚料理の話

広瀬珠子


 ドイツはソーセージとジャガイモの国だと思われていることが多いようですが、北ドイツは海にも面していますし、魚介類の料理もちゃんと存在します。ただし、一般的にレストランのメニューの数などはもちろん肉料理のほうが多いし、バリエーションも豊富です。ということで、今回はこのちょっとマイナーなお魚の話。

 私たちの住んでいたミュンヘンはドイツ南部のバイエルン州に位置し、山と森が多く、河川はたくさんありますが、もちろん海はありません。でも高速物流システムも発達している昨今、魚もきちんと手に入ります。ただ、日本のように普通のスーパーなどでどこでも売っている、というわけではなく、生肉類を置いているスーパーでも魚介類は見かけません。買いに行くのは魚介類を専門に扱っているお店。うちの場合は、近くの常設市場のなかにある魚屋さんや、魚専門のチェーン店「Nordsee」などを利用していました。置いている魚の種類もそれなりにあり、サケ、サバ、ニシン、ヒラメ、マス、スズキ、オヒョウなどなど。丸のままもあるし、切り身もあり、エビやホタテなどの貝類もあります。鮮度も悪くなく、フライや鍋物にするなら十分。主に菜食の我家ではそういう機会はありませんでしたが、もしお刺身をしたい場合は、街の中心にあるヴィクトゥアーリエン・マルクト(市場)に行けば、かなり鮮度のいいものが手に入るようでした。ここには魚屋さんばかり集まった一角があり、そのなかの1軒では特に寿司ネタ用にマグロの赤身を切ってくれたり、甘エビもありました。居住日本人が多いせいもあるし、日本料理が健康食だとして人気が高いせいもあるのでしょう、この店はいつ見ても大繁盛です。
 さて、マルクトの魚屋さんはたいがい簡単な食事もできるようになっていて、その場で好きな魚を選んで好みで調理してもらい、座って食べることができました。さらに気軽に食べたいときは、フィッシュ・バゲットを買って立ち食いも可。これはいわゆるフィッシュ・バーガーで、白身魚のフライをレタスやタマネギと一緒にパンに挟んだり、サケの薫製を挟んであったりするもの。新鮮な魚を置いているお店では、生の青魚の切り身を油と酢に漬けたようなものをスライスしたタマネギと一緒にパンに挟んだものも売っていました。これは、見た目は酢じめのようでさっぱりしてるかなーと思いきや、食べてみるとかなり脂っこい。それから、こういうお店で、値段の割にボリュームがありけっこうおいしいと思うのが魚のスープ。簡単に言ってしまえば、あらや切り落としなどを放り込んで煮たものですが、魚介のおいしいだしがたっぷりで、寒いときなどは立ち食いで熱々のスープを1杯食べれば、お腹もいっぱいになりしっかり温まります。

 レストランのメニューでよく見かけたのは、ニジマスやサケをグリルやムニエルにしたもの、カレイのフライ、ニシンの切り身の薫製など。肉料理に比べると確かに、特にこれと言ってドイツ独特の料理というわけではないですね。強いて言えば、切り身に付け合わせの野菜などを飾ってというこぎれいな雰囲気ではなく、お皿からはみ出しそうな大きさでも丸のままどーんと焼いて出てきてしまう、豪快というか田舎風というか野性的なところ、さらに付け合わせには巨大なジャガイモ団子が乗っかってきたりするところがドイツ風という感じでしょうか。丸のままといえば、以前に報告した世界最大のビールの祭典「オクトーバーフェスト」では、魚料理をおつまみとして出すテント(ビヤホール)があり、このテントの外では炭火の周りに串刺しのサバやマスを100本以上ずらっと並べて常にパチパチジュウジュウと焼いていて、なかなか壮観です。大きなサバももちろん1本丸焼き。これもグラムいくらという値段になっていて、注文すると1匹の魚の重さをきちんと量り、値段を言ってくれます。持ち帰りもOKなので、私たちはサバを1本買って持ち帰り、しょうが醤油を用意して夕ご飯のおかずにしました。でもさすがに2人で1度に丸1本は食べきれず、残りは翌日のサバそぼろ弁当になりました。

 以上はミュンヘンですが、最後に、ドイツで魚といえば北ドイツの港町ハンブルグを忘れるわけにはいきません。ハンブルグは暮れに旅行で訪れたのですが、ドイツで2番目に人口の多い大商業都市で、若者に人気の活気のある街です。北海からエルベ河を内陸に100キロほどさかのぼったところにあり、街そのものが海に面しているわけではありませんが、運河や水路が多く、ヨーロッパ最大規模の港があります。ここでは日曜の早朝に港沿いにフィッシュ・マルクト(魚市場)がたち、活きの良い魚が山積みにされて威勢のいい売り声が飛び交い、物価高のミュンヘンからきた私たちにはびっくりの値段で大安売りされていました。ここに住んでいたら籠いっぱいに新鮮な魚や野菜を山ほど買って帰るのになー、と思わずため息。ところで、ハンブルグで有名なのはウナギです。調理法は切り身のスープや薫製で、たとえばジャガイモや野菜にソースを添えて皿に並べられたウナギの薫製などはさっぱりしていて、「蒲焼き」とはまったく別物という感じがします。これは日本では味わえない、ドイツの味だと思います。



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