今さら聞けない勉強室 ねもはも版
テーマ:加工食品の期限表示


牧下圭貴






 加工食品には、日付がついています。
 日付の意味について考えてみましょう。

■賞味期限と消費期限
 似たような言葉ですが、全然意味がちがう「賞味期限」と「消費期限」です。

●消費期限
 消費期限は、「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう」という定義になっています。
 簡単にいうと、その日までに食べてしまえ、というものです。おおむね、製造から5日ぐらいで「消費期限」となる食品につけられます。

●賞味期限
 賞味期限は、「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする」という定義になっています。
 簡単にいうと、そのあたりまでで食べて欲しいけれど、その日を過ぎたところで、食べても問題ないかーもーねー、というものです。

 どんな食品が、どれにあたるのか、難しいところです。たとえば、牛乳の場合、高温殺菌のものは「賞味期限」ですが、低温殺菌のものは「消費期限」となっています。茹で麺にも、同じようなみためで、「賞味期限」のものと「消費期限」のものがあります。プレーンヨーグルトなどは「賞味期限」です。納豆を調べてみると、「消費期限」のものと「賞味期限」のものがありました。
 ちなみに、わが家では、納豆は発酵食品で、できたてよりも少々日にちが経ったもののほうを好んでいるため、「消費期限」が過ぎてから食べ頃をはかっています。


■品質保持期限〜表示制度の統一
 実は、2005年7月31日までは、「品質保持期限」という表示を、「賞味期限」のかわりに行うこともできます。
 2003年7月に、「消費期限」「賞味期限」だけの期限表示にすることが決まりました。この食品の期限表示は、食品衛生法(厚生労働省管轄)、JAS法(農林水産省管轄)のふたつの法律によって決められています。
 1995年に、食品表示は「製造年月日表示」から「期限表示」に変えられることとなりました。そのとき、食品衛生法とJAS法は、別々の表示制度をつくりました。
 食品衛生法では、「消費期限」と「品質保持期限」という言葉を作り、それぞれ定義しました。
 JAS法では、「消費期限」と「賞味期限」という言葉を作り、それぞれ定義しました。
 そして、どちらも、「製造年月日」のみの表示を禁じたのです。
 ところが、言葉の定義が違っていたり、「品質保持期限」「賞味期限」のふたつがあったりして、製造メーカー、生産者、流通、消費者のみんなが混乱しました。あたりまえです。
 そこで、厚生労働省と農林水産省で長い長い調整が行われ、新しい表示制度に変わったのです。


■製造年月日の意味
 1995年に、製造年月日のみの表示が禁じられました。これは、たとえば牛乳などで、消費者が1日でも新しいものを買いたがり、流通(スーパーなど)も、新しいものしか売れないということで、牛乳の加工、豆腐やパンの製造などが、日付の変わる深夜に操業されることが多くなったり、むやみに廃棄したりされるのを防ぐのが第一の目的とされました。
 さらに、WTO(国際貿易機関)体制の中で、国際ルールに統一するため(ハーモナイゼーション)に、期限表示のみとすることになりました。
 当初は、製造年月日を付けることさえ許さない方向になりかねなかったのですが、消費者団体などの強い反対を受けて、製造年月日をつけても違法ではないということになりました。
 どうして、製造年月日を排除しようというのでしょうか。
 最近、生ものなのに日持ちするものが増えています。生っぽい麺類などが、長い「賞味期限」で売られています。製造年月日は表示されていないので、それが、昨日作ったものか、2週間前作ったものかは分かりません。2週間前につくったものが、日持ちするのは、パッケージや製造工程、あるいは食品添加物などによるものかも知れません。そういう情報は、「期限表示」だけでは分かりません。
 豆腐のように、近くで作られていると思っていたものが、実は遠くから来ているのかも知れません。
 例えば、ちょっと前にあった、卵の日付の偽装問題ですが、半年以上前に採卵した卵をパッケージするときに「賞味期限」表示を偽装していました。
 卵の製造年月日である「採卵日」が、義務表示であったならば、そもそも、何日も、何週間も卵を在庫しながら出荷することは行われないでしょう。
「製造年月日」でないことで、消費者には、製造工程のしくみがわかりにくくなっています。そういう意味では、「期限表示」は製造メーカーにとって都合のいいしくみなのです。
 もちろん、「製造年月日」表示が、生産者、メーカーを苦しめていたのは事実です。
 そこには、買う側(消費者)がきちんと表示の意味や製造工程について知らないという背景や、流通がそこにつけこんできたという背景がありました。
 しかし、「製造年月日」表示は、食品についてもっともわかりやすい表示の目安であることは確かです。


■表示の意味を学ぶ必要
「トレーサビリティ」という言葉がはやっています。追跡可能性というような意味です。ある食品を、誰が、いつ、どのように生産し、どのように流通し、誰が買ったのか、双方向で分かるようにするというのがトレーサビリティの考え方です。食品製造と食品流通に不安が持たれるような事故、出来事が起こる中で、取り組まれています。
 しかし、そこには、食べる人は知らなくても大丈夫という考え方があります。
 どんな食べものも、何も考えずに、選んで食べていいですよ、という考えです。
 これでいいのでしょうか。
 たしかに、それは楽ではあり、安全や安心を人まかせにできることです。しかし、食べものの安全や安心を人まかせにするのは危険です。
「消費期限」が過ぎたら、ぽいっと捨ててしまう。「賞味期限」を1日でも過ぎたら、「食べられない」と判断してしまう。そんな人が私の身の回りにも数多くいます。
 その食品が、作りたてのように見えていて、実は何日も日がたっているかも知れません。そのトリック(いい言葉でいえば工夫、技術の進歩)に気がつくことはありません。
 今必要なのは、ひとりひとりが表示の意味をきちんと学ぶことだと思います。
 そういう教育は、義務教育ではほとんど行われていません。とても怖いことです。
「製造年月日」は、食品について知るための大切な情報です。
「消費期限」「賞味期限」しかついていない食品については、ぜひ、「製造年月日」も併用するよう求めたいものです。そして、再度JAS法と食品衛生法を変え、「製造年月日」を再び義務表示にしていきたいと考えます。




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