戸沢村角川だより1 自然と暮らし、人々のふれあい

出川真也



 環境教育と地域作りの実際を学ぶために山形県戸沢村角川に住み込んで1年あまり経ちました。農山村の自然や生活文化、それらに根ざした知恵と技術を担う住民が環境教育を行うことの意義を学ぶことがこの地域に入った私の第一のテーマでした。このことは農山村で生まれ育った経験を持つ私自身の「原体験・原風景」と重なるものでした。

里の自然環境学校の設立
 山形県戸沢村は東西に大河最上川が流れ、北は丘陵と田園地帯が広がり、南は月山へと続く山々が連なっています。中でも角川地区は豊かな里山の森と川に囲まれ、その自然環境を生かした生活の知恵を残す日本のふるさとの原風景が広がる農山村です。
 ここには四季折々の里の自然の表情とそれに根ざした人々の生活があります。春、雪が解けはじめると村は一面カタクリの花に覆われ、ギフチョウが飛び交います。そして山菜採り、田んぼ、畑の仕事。初夏はタケノコ採り。夏の盛りはお祭り、特にお盆前後は集落ごとにお祭りがあるので、準備や出し物の稽古で子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで大忙しです。そしていよいよ秋は収穫。キノコ採りもはじまります。冬は薪ストーブを囲んでもの作りをし、おばあちゃんの昔語りに耳を傾けます。外は一面の雪野原、またぎのウサギやカモ狩りが始まります。
 これら地域の表情を作っているのは、里の自然であり、それに根ざして暮している地域の住民です。この中で里の自然と人、人と人のふれあいが生まれているのです。しかし、このような「つながり」は、近年急速に失われつつあり、このことを地元の方々も強く自覚し始めています。
 調査に入った時から、地域にはいろいろなことがあると地域の方々から聞かされましたし、私自身も気がつきました。しかしとても1人では調べきれるものではありません。
 そこで、子供達からおじいちゃんおばあちゃん達まで集落住民と私を含めた数人のヨソモンとで集落を歩いて調べてみました。そうすると角川の豊かな自然や生活の様々な知恵や技術、文化、それらを担う人材が数多く存在することが明らかになると同時に、それらの文化が受け継がれないまま廃れようとしている実態が分かってきたのです。
「住民が協力して、子供たちに地域の自然環境や生活文化を伝えるメッセージを発する必要があるのではないか」「地元住民が主体となって子供たちに地域の里の自然や生活の知恵や技術を伝える場をつくろう」と声が起こりました。そして地域住民を「里の先生」として組織した「角川里の自然環境学校」が設立されたのです。

里の自然環境学校の取り組み
 発足以来、里の自然環境学校では地域の自然や文化を土台としたさまざまな環境教育の取り組みが行われて来ました。9月に130人の規模で中心地区で地元学が行われたのを皮切りに、中学校と協同して郷土食講習会、10月にはキノコ狩りとキノコの郷土食講習会、里山新聞作り、11月に秋の里山散策会、炭焼き体験、ブナ林散策、もの作りのための材料集め、12月には中国ギョウザ講習会、わら細工・リース・正月飾り物を作るもの作り塾が行われています。
 このような取り組みでは里に住む各々の人の「よさ」が再発見されています。そして、地域の自然や生活文化の再評価はもとより、地域内コミュニケーションの活性化、世代間交流の活性化、ボランティア活動の促進といった面が進んでいます。こうした中で、今、地域に新しい「つながり・ふれあい」が生まれようとしています。

今後のヴィジョン
 今、里の自然環境学校では、角川の自然や文化を地域に住む自分達だけではなく、都市の住民も視野に入れてヨソモンとも一緒に協同して「日本の里」を作っていけたら、という声が出はじめています。このように地域からより広範な人々とのふれあいとネットワークを広げて、豊かな里の自然と文化を新たに構築していこうとしているのです、村で暮す自分達の手で確かな感触を楽しみながら。



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