いろいろあるぞ、にっぽんの野菜

成田 国寛



 先日ふと日本海側の野菜を見たいと思い、秋田から金沢まで自転車のプチ旅行をしてきた。9月中旬なのに残暑がきつく、始まりと終わりで2度も台風の余波を受けたのはしんどかったが、それ以外は晴天に恵まれ各地の地方野菜を調べることができた。

●シベリアからの贈り物〜酒田キュウリ〜
 かつて日本で栽培されていたキュウリは華南系(関東以西の春キュウリで黒疣系が多い)と華北系(白疣系が多い)が主流であった。今はそれらの雑種であるF1品種全盛の時代であるが、そのどちらでもないシベリア系品種が現在もわずかながら残っている。シベリア系品種は実が太く短いのが特徴である。
 シベリア系品種として日本で最初に調べられたのが山形の酒田キュウリである。酒田キュウリは、昔の地名でいう鵜渡河原(うどがわら、現在の亀ケ崎)地域で栽培されてきた漬物用の小さなキュウリで、長さ10cmにも満たない。一般に酒田キュウリと呼ばれるが、地元では鵜渡河原キュウリとして知られている。苦みがあるため生食はされないが塩漬で親しまれてきた。栽培履歴は古く、江戸時代の書物にもその名が記されているほどである。北海道から東北各県にもシベリア系品種が点在していることから、かの国との交易で原種がもたらされ、栽培条件があった地域で根付いたのだろう。
 同じくシベリア系の血をひき500gをゆうに超えるジャンボな加賀太キュウリを調べたことがあるだけに、ミニチュアサイズの酒田キュウリの現物をぜひ拝みたいと思い、わくわくしながら酒田市を目指した。しかし、時遅し。すでに収穫が終わっていたので惜しくも現物を見る事はできなかった。酒田キュウリの生産量は非常に少なく、かつ出回り時期も6月下旬からお盆頃までと短いため店頭に並んでもすぐに売れてしまうそうである。
 ここで諦めるにはあまりに悔しいので酒田市内の漬物さんや郷土資料館などをかたっぱしから訪問し、酒田キュウリの話を聞いてみた。運良く資料館の館長さんの遠い親戚筋となる亀ヶ崎の生産者を紹介していただけることとなり、自転車をこぐ足も軽くなった。

●かつての産地は…
 亀ケ崎地域は最上川に近いので畑や水田が広がっているかと思いきや、予想に反し住宅と郊外型大型店が軒を連ねていた。ちょっと拍子抜けであった。
 紹介された伊藤さんのお宅を訪問し、さっそく酒田キュウリのお話を伺った。
「本来の酒田キュウリは地這で樹勢が強い反面、実の成りが悪いのが欠点だった。今は品種改良がすすみハウス内で支柱をたてる栽培にかわっている。戦中には塩蔵品を関東の漬物屋さんにも出荷していたが、現在は市内の漬物屋さんとの契約栽培が主なもの。種はどの家も自家採種していたものだ。今は亀ヶ崎ではほとんど栽培されていなくて少し離れた場所ですこし栽培している程度。昔は鵜渡原ダイコンというのもあったが、もうなくなってしまった」
 奥さんも「キュウリの収穫はほんとうにつらかったのよ。地這のうえに実が小さいからねぇ」と昔を思い出されていた。
 そしてラッキーなことに酒田キュウリとも対面できた。奥さんが試作したピクルスが冷蔵庫に保存されていたのである。(昭和60年頃に漬けたもの:添付写真)食べてみると歯ざわりもよく、ピクルスしていたのには驚いた。奥さんの話では、シベリア抑留で味を知っている年配の方には懐かしい味とのことである。なお地域の婦人部の手による「めっちぇこきゅうり」(漬物)がデビューしているので、気がついたら食べてみてください。

 わずか1週間の旅であったが、その地の野菜を調べることはおもしろいものである。焼き畑で育てられる温海カブ、新潟県下のナスなどはまたの機会にお伝えしたい。



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