いまさら聞けない勉強室
テーマ:新・特別栽培農産物表示制度


牧下圭貴





 2002年06月20日発行の「ねもはも」で農産物の表示についてまとめましたが、その中の特別栽培農産物表示制度が変わりました。そこで、今回は、2004年から本格導入される特別栽培農産物の表示制度について整理します。

●特別栽培農産物とは
 もともと、1990年代の前半に「無農薬」や「減農薬」「低農薬」などと表示された野菜や果物が多く市場に出回り、これを規制する目的で導入された表示のガイドラインです。
 その後、2000年よりJAS法で、有機農産物の生産基準と表示方法が定められましたが、特別農産物のガイドラインは残り、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」という4つの表示のガイドラインが示されています。JAS法の有機農産物と異なり、表示ガイドラインには、罰則などはありません。

●何が変わったのか?
 農産物を買う側にとってみて、今回の変更点で何が変わったのでしょうか。
 一番大きな変化は、表示が「特別栽培農産物」のみになった点です。表示内容が下の図のように変わりました。(農水省改正案の図)


 最低限、農薬も化学肥料も両方とも削減しなければ、特別栽培農産物と表示できなくなったのです。これまでは、無農薬だけど、化学肥料はふつうに使っていたり、無化学肥料だけど農薬はふつうに使っていてもかまいませんでした。もはや、そのような「売るため」「表示のため」だけの栽培方法では認められないということです。

●環境保全型農産物を進めるという一文
 実は、特別栽培農産物表示ガイドラインは、その歴史から、「特別な」栽培方法をする農産物はふつうに栽培した農産物より高く売られるため、うその表示が多い、だから、表示方法を規制するという視点でつくられていました。農業を環境保全型にするとか、有機農業などの環境保全型農業を広げるためにやるのではないというのが、農水省の立場だったのです。
 今回は、ガイドラインの中に、「生産の原則」を導入し、環境保全型農業を進めるという考え方を入れています。
【生産の原則】
 1:化学的に合成された農薬及び肥料の使用を低減
 2:土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮
 3:農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培方法を採用

●しかし、まだまだ問題が

・有機農産物(JAS法)との整合性
 有機農産物の規格には、有機農産物の生産を行う中で使用が認められている農薬取締法で指定された農薬があります。特別栽培農産物では、そういう農薬であっても「化学合成」であれば、節減対象となり、使用した場合の表示が必要になります。「化学合成」でも、、性フェロモン剤等誘引剤は、持続農業法に化学農薬低減技術として指定されているため、節減対象とはなりませんが、使ったら表示が必要です。

 これについて、農水省では、特別栽培農産物は、化学農薬・化学肥料の使用を消費者が問題にするのであり、有機農産物とは異なるとして分けた整理をしています。
 しかし、食の安全、環境保全や持続可能性を考えて、有機農産物や特別栽培農産物にあたる農産物を選んでいる消費者にとって、これはまぎらわしい限りです。

・特定農薬
 農薬取締法改定で、地域にいる天敵や重曹、食酢が「特定農薬」となりました。これらは、節減対象の「農薬」にはなりませんが、表示はしなければならないとしています。
 なお、現在農水省は、法律上は「特定農薬」のままに、通称を「特定防除資材」とする方針です。これは、ガイドラインの問題というより農薬取締法の問題ですが、そもそも「特定農薬」という考え方が、何がなんだかわかりません!

・減農薬・減化学肥料の「当地比5割」とは
 減農薬や減化学肥料は、その地域の5割以上の削減のこととなっています。その地域の通常使用分の目安は、その地域を含む市町村や都道府県が示す(または確認する)ことになります。作物の育ち方、病害虫、気候条件、土の条件などが地域によって異なるため、この点は理解できます。しかし、その基準は公開されるのでしょうか。公開する方が望ましいとしていますが、公開されなければ、「当地比」の裏付けがとれません。

・あくまでもガイドライン
 有機農産物の場合、生産者は、認証機関に栽培方法や記録を認定してもらう「第三者認証」によって農産物に「有機」表示をします。この場合、資格を持った検査人が検査を行います。
 特別栽培農産物の場合は、栽培責任者と確認責任者はありますが、資格などはなく、ただ、夫が栽培責任者、妻が確認責任者であっても問題ありません。

●なんのための特別栽培農産物?
 化学合成農薬や化学肥料の使用を減らし、土づくりを基本にして安全でおいしい農産物ができるだけ環境に負荷を与えず、持続的に生産できること。
 これは、有機農産物(JAS法)、特別栽培農産物(ガイドライン)、持続農業法などに含まれる考え方です。
 しかし、本来、この考え方はすべての農業生産にあてはまるのではないでしょうか。環境問題や作る人、食べる人の健康が問題になるまでは、生産量を増やすため、化学合成農薬と化学肥料をつかう技術が普及しました。今、農業は、安全性や環境問題への対応を求められています。
 もし、表示制度がどうしても必要で、そして本気で環境問題や安全性問題に取り組むならば、すべての農産物で使用した資材や生産方法、生産者を明らかにし、表示すればいいのではないでしょうか。それだけでもずいぶん化学合成農薬や化学肥料の使用は減ると考えられます。
 現在、食の安全をめぐっては「トレーサビリティ」という考え方が導入されつつあり、BSE(いわゆる狂牛病)で問題となった牛肉については、牛の由来や餌などが分かるようにすべての牛が管理されつつあります。
 安全性の確保を「表示」に求めるには、それくらいのことをしなければならなくなりつつあります。
 どうも、特別栽培農産物のガイドラインは、「安全」を売り物にした、中途半端な感じがつきまとう制度のようです。

 このような「表示」に対して、自分が住んでいて、誰が、どこで、どのように栽培しているかを知っているものを食べる「地産地消」が広がりつつあります。これならば、がんじがらめの表示や管理に頼り、みんなが無理して栽培記録を取り、誰かにお墨付きをもらわなくても、お互いの信頼の中で安全性を確保し、環境保全を行うことができます。
 私は、こちらの方がずっと楽しい食べものだと思います。

●終わりに
 この特別栽培農産物ガイドラインの改定については、改定前よりは一歩も二歩も前進したガイドラインになったと評価しつつも、本当にこういうガイドラインが必要なのか…と変わらない疑問をもっています。
(2003年6月10日)



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