茨城県八郷町に暮らす
「スワラジのジャムづくり」


橋本明子



 5月27日はスワラジ学園で、いちごジャムづくりの実習をおこなうことになった。農産加工の実習には、わたしも指導の一員にランクされていたものの、実はいままでその責任を果たしていなかった。はじめての挑戦で、いくぶん緊張もした。いちごジャムなら、わざわざ教わらずとも、だれしも作ったことはあるだろう。要するに、いちごを洗い、砂糖をいれて煮れば時間がくればできあがるのだ。
 わざわざ念をいれて教えるというのであれば、普通の作り方とは、違うところがなくてはならない。わたしは以前、ジャムづくり名人の鉄砲塚さんに教わり、それ以来実行していることを、できるだけ再現したいと思った。鉄砲塚さんは、果物本来の味、香り、色をできるだけ損なわずに、加工することが大切であると言われ、果物の鮮度を重視、収穫したらできるだけ時間をおかないこと、煮る時間を最大限少なくすること、果物の色を大切にするため、銅の鍋を使うこと、煮ているときに、アクを最大限すくい取ることで、設備のない家庭でも、かなり良いジャムがつくれると教えてもらった。今回も、スワラジの台所、鍋、ビンなどを使うので、うちでつくっているやり方でじゅうぶんと考えた。
 当日の朝、わたしは銅の鍋1つ、檜のヘラ2つ、アク取り1つ、タイマー持参でスワラジへでかけていった。材料のいちごは、となりの千代田町の竹村さんに、出荷を終えたいちごを摘み取らせてもらうよう、お願いしておいた。竹村さんは、完全無農薬をめざし、自家製の植物エキスや完熟堆肥でいちごづくりに挑み、できたいちごは消費者団体などに直接販売している。子苗づくりから収穫まで、ほぼ3年に近い仕事は、竹村夫妻ふたりがてがけている。
 いちごのハウスは7棟あり、高く畝をあげて、黒いビニールがけしたいちごのベッドで摘み取りをするのははじめての園生もいたので、どのようないちごを摘むかを説明したあと、3棟のハウスにわかれて、仕事にかかった。いちご摘みは楽しく、竹村さんの説明も的確だった。
 摘み取ったいちごはスワラジへ持ち帰り、午後煮る仕事を始める前に、洗ってザルのあげておくこととした。煮る鍋は銅製のほか、ステンレス製を1つ用意した。ガス口が2つだったからである。ジャムをつめるビンは口が密閉できるものを用意してもらい、あらかじめ煮沸消毒しておいてもらった。午後1時半開始なので、うちでの昼食後でかけようとしたところへ、電話がきた。スワラジからで、ジャムづくりは3時半に遅らせてほしい、畠へ行かなければならないからだという。困ったが、農繁期のことで、畠といわれればどうしようもない。やむなく、3時半からはじめた。
 洗って時間のたったいちごはザルのなかでくたっとしている。鮮度のためには、すぐとりかかることが必要だったのだ。用意しておいた洗糖は30パーセント。その8割くらいをいちごが一煮立ちしたところで入れる。火は最大の強火だ。できるなら、20分くらいで煮あげたいと思ったが、いかんせん、火を最大にしても、火勢はそれほど強くならない。家庭用の火口なのだろう。とにかく、鍋底をこするように、始終まぜながら、浮いてきたアクを根気よく、アク取りで除く。5分くらいたったところで、残りの砂糖をいれ、あとは強火のまま、鍋底をこすり、アクを取るくりかえしである。火のそばなので、あつさと共存の仕事である。
 あつさで気がついたのだが、台所は大勢が取り囲んで、鍋の様子をみたり、実際にてがけてみたりするには、狭いのである。学校の調理室のような設備がほしいなと思った。ジャムはできあがるのに予定どおりにはいかず、30分もかかってしまった。その上、学園の夕食の準備にかからねばならない時間がきてしまった。さらに、銅製の鍋は具合良くいったが、ステンレス製の鍋は熱効率をよくするため、円筒型に仕上がっていて、へらで鍋底をかきまわすのには不適当であった。隅がこげてしまったのである。
 わたしは、できあがったジャムの脱気にかかりたいと思った。が、ビンがおおきかったので、蒸し器の深さから、ビンがはみだしてしまう。やむなく、次の日、湯煎にかけてもらうこととした。約40分、威勢良く蒸気をかけて、火をとめたらすぐ、ビンのふたをきちんとしめる。砂糖30パーセントでは甘さで保存料を期待できず、いちごは酸化しやすい果物なので、蒸気の脱気に期待したかったのである。スワラジでは、保存するより食べるほうが早いですよ、となぐさめてもらって、納得するほかなかった。
 一方で、洗ったいちごはあと3鍋分残っていた。これもわたしが手がける時間がないので、園生に、夕食後、必ず今日のうちに、残りの3鍋分を、煮あげるように言い置いて、帰宅するほかなかった。朝の意気込みはどこへやら、わたしにとっては、まことに不本意な実習の門出であった。

スワラジ学園 http://www.future.gr.jp/swaraj/

自給自足の暮らしができる技術と知識を身につけるための実習と、自立的に生きることの意義を学ぶ学科をとおして、自立的に生きるために必要な気力と体力を養い価値観を学ぶことができる、1年制全寮制の「自主」学校です。場所は茨城県八郷町。募集は12名で18歳以上です。詳しくはホームページをご覧ください。(ねもはも編集)


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