かぶ、かぶ、かぶら

成田 国寛



■あっぱれ、天王寺蕪
 年明けに、天王寺蕪(大阪では「てんのうじかぶら」と読む)を食べてきた。
 伝統野菜の復活に向け精力的に取り組んでいる森下さん(府立食と緑の総合技術センター)に、食べさせていただいたのである。試験圃場で生のままどうぞと出された時には、「生のカブ〜」と一瞬思ったのだが、厚めに皮をむいた中側の部分を食べてみると、これが柿を食べているように柔らかく、なんとも甘くてうまい。カブというものは生で食べるものではないと思いこんでいただけに、正直言ってガツンときた。
 天王寺蕪の味を知ってからというもの、スーパーで「かぶ、かぶ、かぶら」と日々見回り、小カブも含めていろいろと試しているのだが、どれも今ひとつ物足りない。冬のカブは煮て食べるとそれなりにおいしかったのだが…。

■どうして増えない?
 うまさ爆発、天王寺蕪。それなのに、なぜもっと増えないのか。
 森下さんから聞いてなるほどと思った。とにかく形も揃いも悪い、割れが入りやすい、病気にも弱いと、まさに三重苦を背負っているのである。最初に密植し、こまめな間引きが必要など、手間もかかるらしい。
 試験圃場でも、握り拳ぐらいの大きさのものもあれば、その横にピンポン玉大のものがごろごろしていた。また、葉の形もまちまち。切葉系の中に丸葉系も見受けられた。まだ十分に固定化されていないらしい。
 市場出荷しても、規格ではねられてしまう率も高いし、手間をかけた分、高く買ってもらえるでもない。うまいとわかっちゃいるけど売り先がねぇ…、である。
 森下さんは、伝統野菜の復活にはプロの料理人や今のカブに慣れた消費者の意識を変える、そして理解を深める必要性があると痛感したそうである。そこで、料亭に持ち込んで食材として使ってもらったり、地域の小学校の食育教材として活用したりと地域の宝を守ろうと奮闘されてきた。その結果、料理人に認められ、小学生は地域の味を覚え、漬物は評判となった。今では値段が高くても徐々に消費が増えているという。再び天王寺蕪の名声が聞こえてくるのもそんなに遠くないかもしれない。

■ご当地野菜巡り
 天王寺カブばかりをほめてしまったが、各地にご当地自慢のカブがある。青森の「笊石カブ」、山形の「温海カブ」、長野の「開田カブ」をはじめ、西には京都の「聖護院カブ」、島根の「津田カブ」などがある。ダイコンとともに主食を補う野菜だっただけに地域の栽培条件や食文化にあうように選抜・育種されてきただけあって姿形を見るだけでも違いがあっておもしろい。ちなみに愛知〜岐阜〜福井を結んだ線を境に東側には西洋系カブが多く、西側は日本系が多い。この境を「かぶらライン」と呼び、文化的な境界と類似していて興味深いものがある。
 カブ以外にも、ご当地野菜とよばれる地方品種が多く存在する。しかし、絶滅に瀕している品種もまた多い。そうなる前に、ご当地野菜を巡る旅などしてみたいものである。


付記1:天王寺蕪は、なにわ大阪を代表する特産品だった。天王寺村の古い記録にも、「諸国の産に勝りて味甘美、村人は干し蕪としてまた漬け物として諸国へ出し、その名を天下にはせるにいたれり」との記載があり、味の良さで天下に知れ渡っていたという。明治時代になって病害虫の多発により絶滅したものと考えられていたが、6年前、偶然にある農家で作り続けられていたところを発見された。その後、地域の有志の力で「なにわの伝統野菜」としてよみがえった。その活動の中心が変人とよばれながらも諦めず20年来活動されてきた森下さんである。

付記2:埼玉飯能で主に固定種の販売をしている野口種苗さんが言うには、伝統野菜など地方品種を採種・販売している小さな種苗屋が毎年のように廃業しているらしい。地方品種の種が売れない、採種を頼める生産者がいなくなったなど、理由はそれぞれだが切実な問題である。
自給の問題が叫ばれて久しいが、種の世界でも多くの野菜の種は外国生まれである。種の生産地表示が厳しくなったため、外国生まれの種が増えたことに気づいた方も多いかと思う。種の生産地の偽装も公然と行われていた。
交配品種が必ずしも悪いとは言わないが、地域の宝を大切にしていきたいものである。





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