遺伝子組み換え連載講座 3
タンパク質の特徴について
付録:生命の始まりを司ったRNAワールド


前川隆文



 イギリスで一流の科学者が子ども達向けに、最新科学をわかりやすく説明する企画で、「宇宙のタマネギ2002 DNA」というものがあります。今年はゲノムプロジェクトのリーダーで、2002年のノーベル賞学者、サルトン博士(イギリス、サンガーセンター所長)が講師でした。ここ数年の同番組中と比べるとつまらない印象でしたが、DNAの構造をやさしく教えていて、子ども達にはわかりやすかったと思います。
 ゲノムの話をちょっとします。ほとんどのタンパク質はアミノ酸が50〜5,000個くらい、つまり一個の遺伝子は150〜15,000くらいの塩基の集まりです。人間は約3万の遺伝子をもっており、つまり同じ数のタンパク質があります。
 数字にお強い方は既にお気づきかもしれませんが、遺伝子1個の塩基数×遺伝子の数は、最大で見積もっても4.5億で、総計の30億には到底及びません。実際人のゲノムの中で意味のある配列、つまり遺伝子は2%(6千万塩基)ほどでしかなく、残りの98%については、不要(ジャンクDNA)、あるいは現在は機能のわからない配列で構成されています。
 次にタンパク質の話に移ります。野球で言うと内野と外野のように、タンパク質は大きく分けて構造タンパク質と機能タンパク質の2種類があります。
 構造タンパク質はその名のとおり、骨・歯・毛髪を形成するコラーゲンなど、体や細胞の形を支えるものです。
 機能タンパク質にはさらに2種類のタイプがあり、一つが体内で起こる様々な化学反応の触媒である酵素、もう一つがホルモンやサイトカインと呼ばれる情報伝達タンパク質(大きな枠組みの中ではこれも酵素の一つ)です。
 生物体内は化学工場のようなもので、様々な反応が進行しており、酵素はこの反応を円滑に進行させるための要素です。
 例えばだ液の主成分はアミラーゼと呼ばれる酵素で、これがお米の主成分、でんぷんの構造を認識してくっつき、そのつながり部分を切ります。酵素とはこのように様々なものの特殊な構造を認識します。‘構造を認識する’というのがタンパク質の重要な任務で、そのため逆にタンパク質も多様な構造をとる必要があります。多様な構造を作るために、DNAの塩基が4種なのに対しタンパク質は20種類ものアミノ酸から構成されています。
 ここでも以前にお話した、小数の基本単位が集まって無限の組み合わせを作る、というケースです。アミノ酸は20種類ですが、例えば5文字あれば20×20×20×20×20=320万、10文字あれば10億種類以上の組み合わせができます。タンパク質の一部の10文字だけでほとんど無数といえる組み合わせがあります。
 DNAとタンパク質の機能の面から最も重要な違いを特徴づける点、それはDNAがその塩基配列と複製能力に重要な意味があるのに対し、タンパク質(複製できない)はそのアミノ酸配列から導かれる多様な構造に重要な意味があるのです。様々な構造のタンパク質が、酵素の機能を持って様々な化学反応を進行させて、生物体は生きています。
 野球に例えると、ニューヨークヤンキースは、トーリ監督(DNA)のもと、バーニーや今年から参加する松井など、様々な選手(多種類のタンパク質)が個々の役割を持って機能し、チームを形成している(生体を形づくる)、といったところです。
 ちょっとまた脱線しますが、生物の黎明期にはDNAもタンパク質なかったと考えられています。前回ちょっとふれたDNAの親戚であるRNAというものが、監督と選手の機能を1人2役していたようです。
 RNAから始まった生命世界をRNAワールドと呼びます。説明は省きましたが、現在もDNAの暗号は一度RNAにコピーされて、それから後タンパク質に翻訳されています。
 なぜRNAが監督と選手の機能を掛け持ちできたか、その答はRNAが構造をとれるからなのです。
 現在のDNAの重要な点は配列と複製能力、タンパク質の重要な点は構造でした。
 DNAは構造をとりにくいのですが、RNAにはDNAと同じ配列を持ち複製能力があるという特徴とともに、タンパク質のように構造もとれるのです。RNAは指揮命令もプレイもできる。しかし単純に指揮命令だけ、プレイヤーだけとしての能力では、DNAとたんぱく質には及びませんので、進化の過程で機能を移管してきたわけです。
 RNAの酵素としての機能を発見したアルトマンとチェックは、1989年にノーベル賞を与えられています。



copyright 1998-2003 nemohamo