茨城県八郷町に暮らす
「冬のはじまり、心の贈り物」


橋本明子



野菜は気候を表現する

 この冬の野菜の出来具合は表題のとおりのように思う。冬の始め、気温が急激にさがり、霜がおり、氷が張った。それが数日続いたため、順応性の高いはずの野菜も、さすがにちぢみあがってしまった。ピーマン、なすなどは霜枯れした。移植した葉もの野菜は根を活着させるだけで精一杯のようで、のびなやんでしまった。冬越しの野菜の種はまきそびれてしまった。
 例年なら、10月の末には秋の葉もの野菜があふれだすくらいに収穫できるのに、有機野菜の露地作りの仲間にといあわせると、いちようにできあがってこないという。早めに蒔いた葉もの−−−ほうれんそう、小松菜、などの列のなかから、大きいものをぬきだして、ちょびちょびと消費者に送りとどけるしかなかった。昨年までの豊穣を思い出すとなさけなかった。
 このまま厳しい冬の到来を覚悟したころ、今度は、気温があがり暖かくなった。あのときの寒さは嘘のようである。暖かさが続くと、野菜たちはのびはじめた。玉葱の種は順調に芽をだし、きもちよくのびだした。葱も同様。ちぢんでいたレタスや葉もの野菜ものびはじめた。が、人参は別だった。葉はきもちよく茂ってくれたのに、かんじんの根が太るには太ったものの、多根が異常に多いのである。なかには、タコのように、8本とまではいかないまでも、5本くらいにわかれた根を持つものさえあった。
 いま。うちでは出荷できなかった人参を、人間も犬もせっせと食べている。ではじめで量に満たない野菜の初取りを楽しむことができるのは農家の特権だが、一年のほとんどはクズ野菜や残り野菜を食べるのも、農家の義務である。畠では、暖かさで伸びすぎた玉葱が行列している。 野菜ほど気候に敏感なものは他にない。


泉の贈り物

 11月26日早朝、娘の泉がグリーンのリードをひきずって、ずぶぬれで歩いていたシーズ系の雑種の小さなおす犬をみつけて拾ってきた。赤い首輪もつけているので、たぶん迷子だろうと考えたのである。うちには既に4匹の元気な飼い犬がおり、もうこれ以上面倒は見られない。
 飼い主を捜そうとなった。まず、犬を飼っている近所にききまわった。心当たりなし。町の無線放送でながしてもらうといいよねとのアドバイスをうけて町役場へ電話した。担当者は放送で流すことはいままでやったこともないし、これからもやらないという。では町に届けるとどうされますか。あずかれば笠間の処分場へ出します。それではあまりにもかわいそう。警察に届けるとどうなるか。飼い主からの依頼が出ていなければ、町とおなじ処置をとるのだそうである。
 水と緑にあふれる自然いっぱいが売り物の八郷町で、犬1匹迷えないではなんとしたことか、と憤慨していたら、聞きつけた町会議員の一人が、こうした事例があったときに何とかいままでの慣例を変えなければ、と申し出てくださり、近辺の集落に町の広報車をだしてもらえることとなった。
 泉はほかの手段もとろうと、犬のカラー写真を撮り、「迷子犬あずかっています」のポスターを作った。写真やさんが、ポスターの原版を無料で作ってくださった。泉は、犬が見つかった周辺の小学校、郵便局、農協、商店などにポスターをはらせてもらった。
 反響がなくて諦めかけていた1週間めの夜、女の子から電話がはいった。小桜小学校のポスターにさがしていた飼い犬が写っていたという。体重5キロあるかなしの小型犬で、近所ばかりさがしていたのだそうである。彼はなんと自宅から5キロ近くも歩いてきたのであった。彼の名は鈴木クウという。年の暮近く、泉は飼い主の鈴木アヤちゃんとクウにこの上ない贈り物をしたのであった。飼い主がみつかったと、わたしもポスターをはがしにまわった。どこでも「よかったですね」と心からよろこんでくださった。わたしもみんなから、暖かい心の贈り物をもらった。

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