遺伝子組み換え連載講座 1
自己紹介、そして遺伝子とDNAの紹介


前川隆文

今では遺伝子組み換え反対運動に参加している自分ですが、20代前半から10年ほどは毎年「遺伝的組み換えのワークショップ」という専門的な会議に出席していた、あちら側の人間でした。ゲノムプロジェクト・クローン・遺伝子組み換え技術の発展は、科学者(大部分)にとっては面白いでしょうが、それを宣伝される物にとっては薄気味悪く映っています。今回はこれら遺伝子関連技術に特化せず、何となく自分が考える生き物についてのあれこれを書いていきます。

GMOとかGM作物:Genetically Modified Organism、遺伝的に操作された生き物。作物だけでなく遺伝子組み換えされた豚や牛などの動物もGMO。現在話題の中心は作物ですが、例えば肉にワクチンを含んだ牛を作るなど、家畜の組み換え技術は精力的に研究されています。遺伝子組み換え人間も、倫理的問題はあるにしろ、おそらくどこかが開発する可能性は高いでしょう。
 既に現実のものとして報道されているクローン人間は、いわゆる一卵性双生児と同じで、ある人と遺伝子が同一の人間や臓器を作りだすことです。間違ってはいけないのは遺伝的に同一なのであって全く同一ではありません。例えば臓器移植などで自分のクローンであれば拒絶反応が起きにくくなります。ちなみに、二卵性双生児は普通の兄弟と同じです。また、絶滅したマンモスをよみがえらせる技術に使える可能性もあります。
 一方組み換え技術は、その人にない別の人間や他の生物の遺伝子を導入することです。例えばイチローの運動神経に関わる遺伝子(具体的に判明していないが)でスーパースターを作るようなことです。

細胞(Cell:セル)というのは、生き物を形成する最少単位の構造です。大腸菌やパン酵母などは細胞1個で1つの個体ですが、人間は約100兆の細胞で1つの個体を形成します。インフルエンザやエイズなどのウイルスは細胞を持たない、細胞(のDNA)に寄生する特殊な構造体です。
 おなじみのDNAですが、Deoxyribo Nucleic Acidの略で、核酸とよばれる遺伝子を形作る物質の化学名。DNAは長い2本の鎖からできていますが、肝心の部分は、A、T、G、C、の塩基と呼ばれるものから構成されており、これが生き物の指令書の文字にあたります。多様な生物の指令書がたった4種類で構成されているのですが、例えば3文字あれば4×4×4=64、5文字あれば1024、10文字あれば100万種類以上の組み合わせができます。この小数の基本単位が集まって無限の組み合わせを作るというやり方は、生物の基本戦略です。人間は30億塩基(文字)のDNAを持っていますが、この1セットのDNAを人のゲノム(genome)と呼びます。人間の1個の細胞には父母の合わせて60億文字のDNAがあり、人間1人分(100兆の細胞)のDNAは太陽までの50往復分の長さになります。

 肝心の遺伝子(gene:ジーン)。これは塩基という文字がある規則に従って集まったひとかたまりのものです。人間の30億文字の中には、3万個の遺伝子があります。一冊の本を生き物の指令書に例えますと、「いろは」や「ABC」といった文字が塩基(ATGC)にあたります。そしてその文字で書かれた各文章が遺伝子になります。塩基(文字)がばらばらに集まっても意味を持ちませんが、ある規則に従うと意味を持ちます。それが遺伝子(文章)です。30億文字、3万個の文章で出来上がった一冊の本が人のゲノムというわけです。現在この3万個のうち機能の判明した物は1万個にも及んでいません。よく古舘一郎などはおもしろおかしく「新日の新たな遺伝子を受け継ぐ小川直也」、「走るDNA、高橋尚子」というように、伝統、能力などのことを遺伝子とかDNAで表現しますが、そんなものは具体的に存在していません。次回はDNAについてさらに詳しく書きます。

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