いまさら聞けない勉強室
テーマ:「有機」表示のいろは 農産物編

牧下圭貴

 2000年4月より、農産物について、「有機」「有機農産物」や「オーガニック」などの表示ルールが法律で定められています。「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」などの表示については、これまで通り、ガイドラインが定められています。
 どの表示が、どんな意味を持つのか、そして、なぜ、このような表示になっているのか、私見も交えてまとめました。

●有機? 無農薬?
 まず、それぞれの表示について整理します

 有機農産物(オーガニック)…JAS法にもとづいた表示方法で、栽培方法や使う資材などに細かな決まりがあり、第三者機関によって検査認証を受けています。生産者、認証機関名などのほか、特定JASマークがついています。使うことができる資材には、天然系の農薬も含まれます。農薬とは農薬取締法に登録されたもので、鉱物や微生物農薬、天敵農薬なども含まれます。有機=無農薬ではありません。しかし、化学合成農薬は使用できません。農薬以外の資材も、化学肥料などの化学合成品は使用できません。

 転換期間中有機農産物…JAS法に定められた有機農産物と同じ栽培方法ですが、その栽培方法をはじめてから6カ月〜3年未満のものは転換期間中とされます。
 無農薬栽培農産物…「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に沿った栽培方法で、農薬を使わない栽培です。化学肥料を使用した場合には、そのことを書かなければなりません。栽培責任者と確認責任者の表示が必要です。有機農産物と違い、その作物が無農薬かどうかだけを判断するため、その作物以前の畑で農薬が使われていても、表示は可能です。

 減農薬栽培農産物…ガイドラインに沿って、地域の同じ作物に使用する農薬のおおむね5割以下しか農薬を使用していないものです。

 無化学肥料栽培農産物…ガイドラインに沿って、化学肥料を使わずに栽培した農産物です。農薬を使用した場合には、農薬使用を表示しなければなりません。

 減化学肥料農産物…ガイドラインに沿って、地域の同じ作物に使用する化学肥料のおおむね5割以下しか化学肥料を使用していないものです。

 2002年現在、日本に流通している農産物には、「有機」「オーガニック」「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」などの表示がされています。表示のないものもありますが、原産地の表示が義務づけられています。
 このうち「有機」「オーガニック」などはJAS法により、法律で定められた表示方法です。栽培方法や使う資材などに細かな決まりがあり、第三者機関によって検査認証を受けたもので、特定JASマークがつけられています。
「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の表示は、特別栽培農産物に係る表示ガイドラインによって表示されています。こちらは、罰則規定のないガイドラインで、栽培を確認する人が別にいて記録がとってあれば表示することができます。
 それ以外の表示については、特に決まりはありません。もちろん、有機や無農薬などを連想させるまぎらわしい表示はしていけないことになっています。
 簡単に言えば、有機、オーガニックの方が、無農薬や無化学肥料などよりも厳しい表示方法ということです。

●JAS法の有機
 1999年7月にJAS法が一部改訂されました。JAS法は、加工食品の規格や品質表示のための法律で、農林水産省の担当です。似たような法律に食品衛生法があり、こちらは、食品としての規格や内容成分を表示するためなどの法律で、厚生労働省が担当しています。JASマークは、それまでハムや加工食品などにつけられていましたが、加工食品全体の品質向上などもあり、JASマークを見て買うという人も減っていたことから、JASマークそのものの必要性も議論されていました。
 ところが、ここに突然、有機農産物表示をJAS法で行うという考え方が登場し、JASマークが再び「必要」になりました。

●有機野菜と呼ばれるために
 JAS法で有機農産物と有機農産物加工食品の規格が決められました。
 ここで、ほうれん草について考えてみましょう。
 山川一郎という生産者が有機ほうれん草を作ってJASマークをつけて販売するためには、まず、栽培方法がJAS法の別表に定められた天然系の農薬、資材(肥料など)で行われていなければなりません。栽培記録を記帳しておくことも必要です。
 登録認定機関に依頼し、有機農産物をつくるほ場(畑)かどうかを認定してもらう必要があります。団体でなく、個人で認証をとろうと思った山川さんは、妻の山川花子さんに、生産行程管理者として登録認定機関から、認定を受けてもらいました。この生産行程管理者が、生産行程の記録をとります。生産行程管理者は、格付け担当者を兼ねることも多く、格付け担当者が、記録を見て有機表示ができるかどうかを判断します。
 登録認定機関は、年に1度以上、これらの記録や実際のほ場を確認して、正しく運営されているかどうかを判断します。
 もし、山川さんがこれから有機農産物をつくるのならば、登録認定機関の検査認証を受けて栽培基準にのっとった栽培をしつつ、記録をつけながら、2年ほどは「転換期間中有機農産物」として販売することになります。
 ややこしいですね。
 つまり、生産者などの記録をもとに、登録認定機関が検査認証を行うというしくみです。
 有機ほうれん草として販売するためには、記録や認定など手間やお金が必要になってきます。

●ガイドラインからJAS法有機へ
 歴史をひもといてみましょう。
 有機農業は、農薬公害による環境や生産者の健康被害、化学肥料の使いすぎで環境が汚染されたり、土が疲弊したこと、石油化学に頼りすぎたことへの反省、消費者運動の高まりなどから広がってきました。
 生産者と消費者の直接提携(産消提携)にはじまり、生協や小規模な団体による共同購入や宅配、自然食品店などで手にはいるようになり、やがて一般のスーパーや小売店でも「有機」や「無農薬」の表示がされるようになりました。
 まがいもの表示が多いということから、農林水産省が92年に表示ガイドラインをつくりました。このときには、有機農業を日本国として育て、広げるという生産のための政策なしに表示だけの規制だったため、有機農産物や無農薬野菜などに関わる生産者団体、消費者団体から反対の運動が起こりました。
 このころより、有機農業関係の生産者団体や流通団体から独自に栽培基準をつくり、表示についても考える動きが生まれ、「顔の見える関係」という言葉に象徴される「信頼関係」中心から、信頼関係に軸をおいた栽培基準や表示方法での生産、流通、消費のあり方へ変わっていきました。
 世界的には、WTO(世界貿易機関)が誕生し、世界の貿易には関税だけでなく、規格、基準や規制などの壁があってはいけないというハーモナイゼーションという考え方が押し進められてきました。
 様々な食品に「国際規格」を定めるコーディックス委員会が力を持つようになり、食品添加物や農薬などでも、日本の規制をゆるめようという動きが生まれ、また、有機農産物(オーガニック)の国際規格も定められるようになりました。この国際規格づくりに合わせるように、日本でもガイドラインが生まれ、やがて、JAS法の改定による有機農産物表示となったのです。

●有機農業ってなんだろう
 納豆の表示を見てみると「有機大豆使用」「国産大豆使用」という言葉が踊っています。納豆の場合、「有機大豆」の表示は海外産で、「国産大豆」は有機ではない国産品の場合が多いようです。これを見るたびに、複雑な気持ちがします。
 有機農業の考え方に立ち返ってみたとき、どっちが、その考え方に合っているのだろうと考えてしまいます。
 有機農業の考え方には、地産地消があります。地域で栽培されたものを地域で消費する。自然環境を考えたとき、もっとも負荷をかけなくて、物質循環できる方法です。
 これを拡大してフードマイルという考え方もあります。食べものを運ぶ距離を考えようというもので、遠いところから運ぶということは、それだけエネルギーをかけることだから、フードマイルが短いものを選ぼうというものです。
 もちろん、農薬や化学肥料の多用による害もあります。
 たとえば、輸入有機大豆と農薬の使用を極力減らした国産大豆なら、どうなのでしょう。
 私は、国産大豆を選びますが、あなたはどうしますか?
 表示ができたことで、まがい物が減り、選ぶための目安ができたことはよいことだと思います。
 しかし、有機であっても、近くでできるものを遠くから運んでくるのでは、本当に自然環境によいかどうか、分かりません。
 同じ「国産」であっても、栽培方法や生産者、産地によっては中身がずいぶんとちがいます。
 表示はあくまでも目安に過ぎません。その農産物の由来について、できるだけ知ることで表示以上の信頼や安心を得られることになると思います。

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