チレチレ便り チリの野菜と果物

池田久子

「チリの果物や野菜はどんなものがあるの?」と聞かれて、だいたい同じようなものがあるなあと思うものの、さて和食を作ってふるまおうとするとあれがない、これがないと気づくものです。

 私の下宿の食卓の常連さんはタマネギ、ニンジン、ジャガイモ、かぼちゃ、モロッコいんげん、トマト、レタス、とうもろこし、セロリ、アセルガ(フダンソウ)が基本で、欠かせない香辛野菜、ハーブはニンニク、トウガラシ、コリアンダー、タイム、オレガノ、イタリアンパセリ。そのほかの野菜はキャベツ、アボガド、キュウリ、ズッキーニ、ピーマン、またはパプリカ。頻繁に出ない野菜は、カリフラワー、ベタラガ(ビーツ)、アーティチョーク、アスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ。こんなところでしょうか。

 特においしいなと感じるのはジャガイモ。甘味があって、フライドポテトが妙においしい。カリッじゃなくてしんなりしてて甘いのです。トマトもおいしい。身はちょっと固めで、酸味が強いかな。トウモロコシは日本の繊細な新鮮な甘いトウモロコシが勝ち!あれにはかないません。こっちのはでっかくって硬くて、つぶして作る料理はいいけど、そのまま煮込む料理はモチモチ硬くてあまり好きではないですね。

 あと私にとって毎食欠かせないのはコリアンダー。トマトのスライスにタマネギのみじん、そのうえに刻んだコリアンダー、塩とサラダオイルをふりかける。これがほとんど毎日続いてもなぜか飽きないくらいコリアンダーは大好き。

 あまり好きではない野菜はアーティチョーク。時間をかけてゆで、タケノコの皮みたいなかんじの風味のものを一枚ずつはがして、レモン・サラダオイル・塩を混ぜたものにちょいとつけ歯でしごきつつちまちま食べる、面倒なわりにあまりおいしいとは思えない。ビタミンが多いというものの、わざわざ食べるほどのものでもないかなと。

 一度も食卓にあがったことがない野菜は、大根、カブ、白菜、ナス、ごぼう、サツマイモ、ネギ、オクラ、ショウガ、もちろんサトイモなども。でも大根、ナス、ネギは大きい都会のスーパーでは売っているのを見たことがあります。時々無性に食べたくなるのは、山菜類、ネギ、シソ、ショウガ、ミョウガ、ワサビ、ミツバなどの香辛野菜ですね。うどんを作ろうとして、「あ、ネギがない」とか、おいしいシャケを「大根おろしと醤油で食べたいなー」とか。「枝豆にビール!」とか。こういうさっぱりしたもの、歯ごたえがあったりシャキシャキしたものに出会うのが難しいのです。

 果物は豊富です。そして安くておいしい。うちの庭から取れた果物だけでも、枇杷、桃、黄桃、アボガド、イチジク、今がブドウ、ザクロ、それから柿、みかん、ざくろ、マルメロもこれから収穫できるはずです。

 春はさくらんぼ、イチゴ、スモモ、桃類、パパイヤ。夏はスイカ、メロン(果肉がオレンジのが多く、緑のは少ない)それからウチワサボテンの実(トゥナ)秋からはブドウ、洋ナシ、リンゴ、キウイ、ミカン、栗、輸入物のバナナなどなど。でも私の大好物はチリモヤ。白くて甘味の強い果物はタイで食べたマンゴスチンに少し似てるかな。

 果物で特に感動するのはさくらんぼ。1キロ100円。日本への輸出ができるようになってさらにさくらんぼ生産が本格的に力が入るでしょうが、農家の庭先で食べる無農薬のものはお腹がいっぱいになるまで食べたくなります。

 おいしいものに囲まれさぞ食べて、さぞ太ったかというとさにあらず。ズボンはゆるくなったし、コレステロール値を上げる協力隊員が多い中で私はなんと値が下がったのです。きっと野菜が多く健康的な食事にその理由があると信じているのですが単に酒量と間食が減っただけだったりして。しかしともかくマリアおばさんは、インスタントもの、コンソメの素などは決して使わず、すべて肉からダシをとり、揚げ物や肉だけの料理はなく、豆料理は1週間に1回、時々は手のかかるチリの伝統料理、手作りパン、週末にはケーキ、夏の週末にはポンチェといって白ワインに刻んだ果物と砂糖を加えたお酒などを作ってくれます。このほか保存食もつくります。黄桃ジャム、キイチゴジャム、刻んだ胡桃を加えたメロンジャム。このほかお客さんにふるまわれるパパイヤやさくらんぼのシロップづけもおいしい。

 野菜類はピクルスなどでは食べる習慣はありませんが、唐辛子やタマネギをワインビネガーに漬けたエスカベーチェがあります。夏になってから毎食クセで食べてしまうこの唐辛子、アヒ・ブランコ(白い唐辛子)。これを生のまままるごと、ちょこっと塩につけてチビチビかじりつつ他の料理を食べるのが大のお気に入り。しかし見かけの頼りなさからは想像がつかないほど辛い。だいたい1本も食べると涙と鼻水がでてきますが、胃が弱いくせに辛いものが大好きな私は、涙と鼻水をふきつつ1本は食べます。ある日、何気なく2本半もガリガリと種までしっかり食べたら、それから数分間、涙と鼻水がどーどーと止まらなくなってしまった!その後反省し1本で抑えること、種まで食べないように気をつけてます。

 アヒに泣きながらそれでもうまいと食べつづける私を見て家族が笑います。おいしい料理を食べていれば笑顔が自然にこぼれ、まだ足りない言葉もカバーでき食卓がにぎやかに楽しくなります。私はいつも飽きることなく料理をほめちぎり、にこにこご飯をいただきます。マリアおばさんもますます張り切って料理を作り、私たちは幸せな食卓を囲みます。

 こちらは秋。ブドウや栗のおいしい季節になりました。

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