いまさら聞けない勉強室
テーマ:塩の種類

牧下圭貴

 最近、いろんな塩を見かけます。安い塩もあれば、高い塩もあります。どれがいい塩で、どれが悪い塩なのか、そんなことを言われても困ります。どれもこれも塩です。なにがどう違うのか、調べてみました。

■どうして塩の種類が突然増えたの?
 1905年から1997年3月31日まで、塩は「専売制度」で製造販売が規制されていました。97年4月より、その専売制度が廃止され、自由な塩の製造販売ができるようになり、スーパーなどで様々な国内外の塩が売られはじめました。
 専売の前と後では何が変わったのでしょうか。
 政府により専売されていた90年以上の歴史を一言でまとめると、つまんない塩です。
 普通に手に入る塩は、専売公社(のちには、JT)の塩ばかり。イオン交換膜電気透析法により作られた塩は、食塩=塩化ナトリウムの純度が高いもの。塩からいだけでうまみが少ないと評判は悪かったのですが、ほかの塩が手に入らなくなり、やむなくこの塩に慣らされていました。この専売当時も、JT塩に海外の原塩などを使ってミネラルやにがり分を加えた再製自然塩が売られていました。しかし、国内の塩田は神事用、研究用などを除きすべてなくなったため、海の水からつくった本物の自然塩にお目にかかることはほとんどありませんでした。
 専売制度が廃止になり、塩の製造、販売が自由化されて、国内でも昔ながらの塩田が一部で復活し、本当の海の塩が売られるようになりました。また、海外の塩も輸入されるようになりました。

■塩がとれるところ
 塩には大きく分けて海水塩と岩塩があります。海水塩は、海の水を煮詰めたり、蒸発させて塩を取り出しています。岩塩ももともとは海の水で、かつて海だったところが干上がって堆積し、塩の地層になったもので、それを採掘して塩を取り出します。
 日本では岩塩がとれませんし、四方を海に囲まれているため、古くから海の塩を利用していました。

(海の塩)
●藻塩焼き(もしおやき)…万葉集にもでてくる古い塩づくりで、浜辺で海草を利用して塩を取り出していたようですが、詳しい方法は分かっていません。
●揚浜式塩田…浜辺で海面より高いところを平たくならして、そこに海水を汲み上げ、太陽熱と風で水分を蒸発させ、砂に塩分をつけます。それをさらに濃い塩水にします。にがりを落としながら、塩の結晶をとります。余談ですが、インドネシアのバリ島では観光をかねてこの塩づくりが見学できます。
●入浜式塩田…遠浅の海岸で潮の満ち引きを利用して海の水を引き込み、太陽と風で水分を蒸発させる方法で、17世紀に瀬戸内海沿岸で開発されました。戦後しばらくこの方法は続きました。
●流下式塩田…ポンプで海水を汲み上げて高いやぐらの上から薄く編んだ膜のようなものに海水をふりかけ、風の力で蒸発させていきます。塩を含んだ砂を運ぶ作業がないため、作業性が上がりました。
●イオン交換膜電気透析法…海水中の塩分はナトリウムイオンと塩素イオンに分かれています。イオンの電気的な性質を利用して、電力を利用して塩化ナトリウムを海水から集める方法です。日本では、1972年から、食塩用としてはすべてこの方法のみになり、全国に残っていた塩田は廃止されてしまいました。

(岩塩)
●乾式採鉱法…鉱山で鉱石をとるのと同じ方法で坑道をつくり採掘します。世界には、岩塩層が地表に出ているところもあり、そんなところでは、露天掘りも行われています。なお、岩塩には、ピンクや青、緑がかった色をしたものがあります。これは、不純物が混ざったものです。
●溶解採取法…岩塩層に淡水を入れて岩塩を溶かして利用します。なかには地下水などが岩塩を溶かしてできた地下の塩水を採取して塩の結晶にすることもあります。

■塩の種類
 ここでは、正式な分類ではなく、一般的に売られている塩について説明します。

●食塩(旧JT塩)…イオン交換膜電気透析法でできた塩化ナトリウム以外が1%未満のほぼ純粋な塩化ナトリウム。単一な味。
●精製塩…塩化ナトリウム99.5%以上。食塩よりもさらさらしています。
●食卓塩…食塩に炭酸マグネシウムなどでコーティングし、防湿したもの。
●自然塩・天然塩など(再製自然塩)…専売時代に食塩を原料にして、海外の原塩などから再加工し、ミネラル分やにがり分を加えた塩が自然塩・天然塩として売られていました。「シママース」「伯方の塩」「赤穂の天塩」「五島灘の塩」「あらしお」などがこれにあたります。製造者によって加工方法は異なり、含まれる成分量なども違っています。
●自然塩・天然塩など(自然海塩)…専売法の頃は、市販されなかった伝統的な塩づくりによる塩。専売当時から伊豆大島では、日本食用塩研究会が塩田試験場をつくり、それを「海の精」として会員配布していました。自由化された現在、この「海の精」の他、高知、天草、沖縄、小笠原などで、自然海塩が作られています。価格は高価ですが、いずれも品質は折り紙付き。
●輸入塩…専売がなくなったあと、ヨーロッパ、南米、東南アジアなどから塩が輸入されるようになりました。海塩、岩塩、加工塩など種類も品質もいろいろ。

■なぜ塩田は消え、今よみがえるのか
 1950年代から急速に姿を消した塩田。ついに1972年にはすべての塩田を廃止することが決まりました。どうして、こういう政策を行ったのでしょうか。塩田は海岸沿いの砂浜にあります。高度成長期のこの頃、塩田の立地はそのまま工業用地として最適な場所だったのです。工業化を進めるためには、伝統的な塩田産業が邪魔になりました。そこで、イオン交換膜電気透析法が優れているとして、塩田をなくしていったのです。つまり、日本の食と海岸の風景は、工業化によってずいぶんと違ったものになってしまいました。
 今、全国のあちこちで、自然な海や砂浜を取り戻そうという動きが起きています。塩田をよみがえらせる人々の気持ちには、食文化、食の安全性だけではなく、こうした自然環境への思いもあるのです。

次回は、食文化の影の主役・塩の活躍について。

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