●炒り豆の魔力 小さい頃から、炒り豆が大好きであった。 節分の豆まきに使う、炒った大豆である。子供の頃は、歳の数だけ食べていい、という不思議な決まりに、「早く大人になりたいなあ。もっとたくさん食べられるのに…」とくやしく思ったものである。 炒り豆はいい。 3〜4粒まとめて口に放り込み、奥歯でボリリとかみ砕くと、香ばしい甘味と豆の香りが鼻腔いっぱいに広がる。かみ砕く感触が心地よくて、ぽいぽいと食べ続ける。のどが渇くので、いっしょにお茶や牛乳を飲むと、腹に入って適度に砕かれた豆が水分を吸い、むちゃくちゃ満腹になる。それでも、いつまでもいつまでも食べ続けていたくなるほどの、炒り豆は不思議な魔力を持っている。 食べ過ぎておなかを壊すこともあり、親や友人に「もうやめなさい」と豆袋を取り上げられたことも何度もある。悲しい思い出である。 自作も試みた。子供の頃、母はフライパンで乾大豆を炒っていた。裏庭に生えている、なにやらくさい匂いのする葉っぱをいっしょに炒るのがしきたりであるらしい。 しかし、この「フライパン炒り法」では、十分においしい炒り豆は出来ない。市販の炒り豆を割ってみると、内部にスカスカと空洞が出来ていて、周辺は茶色く乾燥している。かみ砕いたときに、この空洞のおかげで軽やかに豆が砕けるのだ。 フライパンで炒ったのでは水分が抜けきらず、どこか歯に付くような、それでいて固く火の通りきっていない生豆の感触で、スナック感からはほど遠いのだ。 長年の試作の結果、市販の炒り豆に一番近い食感に仕上げる方法は「電子レンジ乾燥法」である、とわかった。方法はこうである。 まず、乾大豆は一晩水に浸けておく。なるべく小さい豆が向いている。 翌日、この豆をざるにあげて水気を切る。他に用意するものは、ペーパータオルと平ざる。 電子レンジの皿にペーパータオルを敷く。ここに大豆を均等に並べる。中央は開け、周辺部だけにするとよい。 この状態で扉を閉め、5分間加熱する。ここで扉を開け、菜箸かなにかで豆を全体にかき回してやる。熱の通り具合の悪そうなやつは、通っているやつのあたりと入れ替える。そして、もう5分加熱(これでまだ生っぽいものがあれば、とりのけてさらに加熱する。)。 これでかなり市販のものに近くなっているはずだ。ここであわててはいけない。新しいペーパータオルを敷いた平ざるに豆を広げ、しばらく冷ましてやる。 できた豆をかじってみてほしい。中には空洞ができている。サクサク炒り豆の完成である。 思うさま楽しんでいただきたい。 熊本県水俣市のすてきなおばさまに教わった、ピーナツ版の呉汁(ごじる)。 とろっとポタージュのように仕上がり、腹の底からぬくまります。
|