はるの魂 丸目はるのSF論評


フライデイ
FRIDAY

ロバート・A・ハインライン
1982



 たしか読み返すのははじめてなのだが、最近どっかでこれと似たような話を読んだ記憶がある。いや、似ているけれどあきらかに違っていたのだが、主人公の女性戦士のノリが近かったのだ。誰だっけ? なんだっけ? こういうときに、自分で書いているメモが役に立つ。エリザベス・ベア「サイボーグ士官ジェニー・ケイシー」シリーズ「女戦士の帰還」「軌道上の戦い」「黎明への使途」の三部作だ。この三部作は、2000年代最初の作品群。一方、こちらは巨匠ハインラインの晩年の作品である。
 主人公は、フライデイ。遺伝子操作によって生み出された人工人間である。記憶力、計算能力、身体能力に優れ、戦闘伝書使としてプロフェッショナルな仕事をしている。独立した女である一方で、ボス、組織、家族といった帰属できる人や場所を常に求めている。それはばれると人格を否定される人工人間だから、それとも、フライデイだから?
 旧体制である国家と実質的な体制となっている多国籍企業に支配された国家、あるいは、企業間の世界的な争いに巻き込まれてしまったフライデイ。ボスとは連絡がつかず、組織との接触も難しくなり、そして、できたばかりの家族との絆も切れてしまった。
 それでも、助けてくれる人はいる。友人になれる人もいる。世界とはつながっていられる。だから戦うことができる。組織と、ボスと再会し、新しい恋人たちとふれあうために。
 なぜなら、フライデイだから。
 自立した信念の人が大好きなハインライン。実は徹底した個人主義で、それ故に、個人と組織、国家、企業などとの関わりを考えていたハインライン。個人主義を徹底させることはそれはそれで大変なのである。個人主義故に、フリーセックスや拡大家族といった保守的常識にはこだわりを持たない。むしろ個人の自由を尊重する立場に立つ。
 あまりにも個人主義を尊重するが故に、信念を持たないものを軽蔑するのはどうかとも思うところはあるが、保守だとかリベラルだとか気にしていないところがよろしい。
 おとな向けのジュブナイルとして、気楽に、楽しく読めばいいじゃないか。
 文庫版の帯にあるとおり、「恋あり、謎あり、陰謀あり、ハインライン会心の冒険SF!」なのだ。楽しもう。

(2010.11)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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