はるの魂 丸目はるのSF論評


ゾーイの物語 老人と宇宙4
ZOE'S TALE

ジョン・スコルジー
2008



 作者のあとがきにも書いてあったが、オースン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」に対する「エンダーズ・シャドウ」にあたる作品である。老人と宇宙シリーズの第3作「最後の聖戦」を、主人公の娘「ゾーイ」の視点で再構成し、その解題を果たす。
「エンダーズ・シャドウ」同様に、視点を変え、再構成することで、まったく違う物語が生まれる。それでいて、前作で世界観を共有しているので、ささやかな「ずれ」が、物語に深みを与える。
 同時に「老人と宇宙」のシリーズだが、本作品は、10代の少女の恋と、冒険と、成長のストーリーである。ここにきて、これですか? いや、いい意味で。
 いくつになっても、「青春」ものっていいね。わくわくする。いやあ、ゾーイも大人になったもんだ。
 この作品を読むために、最初の3作を読む価値がある。おもしろいよ。

 さて、話だが、「最後の聖戦」と同じであるが、本書は主人公がゾーイである。ゾーイは、かつて人類を滅亡のふちまで追い込んだ男の娘であり、現在は人類の属するコロニー連合との協定を結んでいるオービン族の女神としてその人生のすべてをオービン族のふたりの特使により記録され続けている特異な存在である。オービン族の姿は、人類には一見して恐怖をもたらすもので、そのふたりがほぼ常にゾーイに付き添っているのだから、それはそれは大変である。しかも、父親も母親も元軍人であり、指導者でもある。立場としても特殊である。ゾーイ自身は、10代、多感で賢く、責任感の強い少女であり、両親らとともに、新たな植民星に入り、友を得、ボーイフレンドを得、そして、人生を形作っていく。「最後の聖戦」では描かれなかった、植民星の知的生命体の姿、そして、決して描かれることのなかった最強種属オービン族の姿、敵であるコンクラーベとガウ将軍の姿が、ゾーイによって活写される。いやあ、青春だねえ。怖いもの知らず、いや、怖いものを知っていく過程のすごさ、青春っていいね。

(2010.11)




TEXT:丸目はる
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