はるの魂 丸目はるのSF論評


地球は空地でいっぱい
EARTH IS ROOM ENOUGH

アイザック・アシモフ
1957



 アシモフの初期短編を集めた作品集である。日本で邦訳されたのが昭和63年、1988年。バブル真っ盛り。SFも真っ盛りの季節である。次々に邦訳される作品たち。仕事が忙しく、インターネットはまだで、ついつい買い忘れることも多かった。そんな時代。
 作品は50年代のもので、アシモフが若かりし頃の短編がずらりと並んでいる。SFあり、ロボットあり、ファンタジーあり、ユーモアありと、アシモフのカタログといった趣がある。
 そのなかで、今回読んで楽しかったのは「投票資格」。広義のロボットもので、動かない地球の為政者「マルチヴァク」の物語である。アメリカで4年に一度行使される、アメリカ国民の最大の権利である大統領選挙。「マルチヴァクの時代」であっても、アメリカ大統領は選出しなければならない。果たして、どのようにすればいいのか? アシモフが考えたちょっとウィットの効いた結論とは?
 インターネットが普及し、匿名の大衆の発する声の情報ラインと、よくわからない「マスメディア」という情報ラインが交錯し、正義とか公正といったものが、なんだかよく分からないことになってしまった現在の対極の回答がここにあると言ってもよい。どっちもいびつで変で、笑えるのだが、現実というのは笑えないところもあるので、こういう作品を読んで笑っておいた方がいい。


(2010.05.02)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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