はるの魂 丸目はるのSF論評


ノパルガース
NOPALGARTH

ジャック・ヴァンス
1966



 地球とは違う星系で、地球とは違う進化を経て、人類よりも早く星の世界を手に入れ、そして、ノパルによって果てなき戦争に追い込まれ、星を荒廃してしまったザックス人。戦争を終わらせた彼らは、ノパルを追ってある星の攻略を計画する。その星は地球。地球人ポール・バークは、ザックス人によって拉致され、宇宙の真実を知らされる。地球での使命を与えられ、地球に戻ることになる。たったひとり、人類とは違う世界を知った男、バークの行動は、人類とザックス人、そして宇宙に大きな影響を与えることになるのだ。


 ジャック・ヴァンス「竜を駆る種族」以来の翻訳である。作品は1966年に発表。古き良き時代のパルプ雑誌SFであるが、ストーリー展開と結末は時代背景を感じさせる皮肉に満ちたものである。テーマをあえて考えれば「善と悪の二面性」といってもいい。ある側面から善に見えたものがある側面からは悪になる。つきつめていけば絶対的な善と悪にたどり着くのかも知れないが、そのオセロゲームはどこで終わるのかが分からない。フランスとベトナムの泥沼の中に仲裁者として入っていったはずのアメリカがいつの間にかベトナム戦争の主役となり、やがて正義が悪になるその過程。アメリカ人の苦悩、そんな世相が反映しているような作品であった。
 そう書くと難しそうだが、パルプ雑誌SFである。軽い娯楽ものとして読めることは間違いない。おもしろいのも確かだ。しかし、40年以上前の作品を今頃翻訳する意図は分からない。あれも、これも読みたい作品はあるのに。映画化でもされるのかしらん。


(2009.09.25)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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