はるの魂 丸目はるのSF論評


虚空のリング
RING

スティーヴン・バクスター
1994



「時間的無限大」に続き、ジーリー年代記の長編にあたるのが本書「虚空のリング」である。宇宙論の仮説を大胆に活用して、宇宙のはじまりから終わりまでを、まるでゾロアスター教における光と闇の戦いのように描ききるバクスターの意欲作である。「時間的無限大」でも、本書「虚空のリング」でも、結局はこの宇宙の終わり(の方)が描かれている。
 最初から宇宙が終わっているわけではなく、結局のところ、宇宙の終わりにつながっているということで、これは、「すべての人間は必ず死ぬ」とか、「致死率100%の病気は死だ」というのと同じくらい意味のない説明でもある。
 時間軸は、まだ、スクィームにもクワックスにも出会っていない、太陽系からほとんど外に飛び出していない、前著「時間的無限大」のマイケル・プールがいなくなってから150年後の太陽系にはじまる。「時間的無限大」で起きた未来からの侵略から伝えられた情報は、その後、聖スーパーレット光教会を生み出し、一部のものがある程度深刻に宇宙の未来を考えていた。現実に、我らが太陽系の太陽に変化が起きている可能性があった。宇宙の恒星が本来のしかるべき寿命より年を取っているのだ。太陽もまた、早くに老化し、赤色巨星化する可能性がある。そこで、太陽内部の調査を行うため、あるAIが生み出され、ワームホール技術を応用して太陽に送り込まれた。
 そしてもうひとつ、聖スーパーレット光教会は、本来ならば100億年も先と予想される宇宙の晩年が500万年程度で訪れると予想した。そこでGUT船を1000主観年亜光速で加速させ、その500万年先の未来にワームホールを運び、過去と未来をつなごうと計画する。しかし、1000年も続く目的を持った小社会を継続することは難しい。様々な議論と計画を経て、3953年、GUT船グレート・ノーザンが亜光速飛行で未来への旅をはじめた。
 この物語は、太陽に送り込まれたAIと1000主観年、500万年先の未来に行こうとする人々の話をクロスさせながら、人類が真に知ることのなかった超種属ジーリーと、暗黒物質界の生命体フォティーノ・バードの宇宙規模の戦いの姿を知ることになる。
 時間と空間は絡み合いながら、物語の間を展開し、読者はめまいに満ちた時空の広がりを感じることができる。

「想像もつかないものを書きたい」と、作者のバクスターが思ったのかどうかは分からないが、とにかく壮大である。数千光年、数百光年といった規模の話が軽々と出てくる。地球から一番近い恒星まで4.37光年。それでも、空を見上げるとその恒星は点にしか見えない。宇宙は広く、その規模は想像を絶する。すごいなあ、バクスター。
 すっとするぜ。

 そうそう、グレート・ノーザン内の社会は、ハインラインの「宇宙の孤児」を思わせるところもあってほほえましい。



(2009.09.05)

TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ