はるの魂 丸目はるのSF論評


73光年の妖怪
THE MIND THING

フレドリック・ブラウン
1961



 本書「73光年の妖怪」は、1961年に発表され、日本では1963年に井上一夫氏の翻訳によって創元推理文庫SFから出版された。原題と大きくかけ離れた「妖怪」であるが、この「妖怪」は73光年離れた惑星から追放されて瞬間的に地球に到着した異星の犯罪者である。なにゆえに「妖怪」かといえば、それは「人にとりつく」からである。ということで、本書の解説では、ブラウンをSFの中のファンタジー作家と断じて評している。人それぞれの見方である。
 この異星の知性体は、近くにいる動物の精神に入り込み、乗っ取って、その知識や経験を習得し、自由に行動させることができる。ただし、一度入り込むと、自殺またはなんらかの手段で死ぬしか、その精神から抜け出し、自らの肉体に戻ることができない。また、動物が眠っているときに限られる。そして、入り込むためにはある程度近づく必要があるものの、地球上ではほとんど移動手段を持たない。さらに、知性体の肉体は数カ月ごとに栄養補給する必要がある。それは、たんぱく質のスープであればなんでもいい。
 異星の知性体は、もちろん人間にとりつくこともできる。知性を持っている対象の場合、相手が眠っていてもそれなりの抵抗を受けるが、それでも乗っ取りは難しくない。
 知性体は犯罪者であり、たまたま運良く動物のいる惑星に放出されたが、もし彼が自らの惑星に無事戻ることさえできれば、地球という新たな植民地を見つけたということで評価され、身分を回復することが可能になる。故に知性体は地球の科学者に入り込み、知性体を送り込んだ高度な技術を伝え、それによって自ら帰る必要があった。
 知性体は、まずネズミに入り込み、そして、ひとりの青年を乗っ取った。知性体にとって計画は簡単にいくような気がしていたが、思わぬ敵が現われる。
 人間や動物の不審な死が続くことに関連があると感じたひとりの科学者が、独自に調査をはじめた。今、ここに知性体と人間の科学者の知恵比べがはじまる!
 SFスリラーという感じでもある。

 見えない精神の乗っ取り。SFでいえば、「20億の針」(ハル・クレメント 1950)や、「人形つかい」(ロバート・A・ハインライン 1951)を思い起こす。それらよりも10年後の作品であり、当然、本書「73光年の妖怪」は「20億の針」「人形つかい」を受けて書かれた作品だと思っていいであろう。
 内容としてはとても楽しくおもしろく読めるのだが、タイトルがなあ。もう少し考えなかったのだろうか? タイトルだけでずいぶん損をしていると思うのだ。本書は。ということで、ずっと読まずにいたのだが、手元には1989年の第33版がある。よく売れていたんだなあ。同居人が買って読んでいたものらしい。同居人はおそらく「妖怪」の方に釣られたのだと思われる。それぞれである。





(2008.10.05)




TEXT:丸目はる
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