はるの魂 丸目はるのSF論評


楽園の泉
THE FOUNTAINS OF PARADISE

アーサー・C・クラーク
1979



「軌道エレベーター」を地球上につくるためには何が必要だろう。もし、事故があったとき、その事故を最小に防ぐにはどうしたらいいだろう。果たして、地球に軌道エレベーターをつくることは価値があるのだろうか?
 すでにSFの基本アイテムとなった「軌道エレベーター」について、そのアイディアと現実感をはじめてきちんと形にしたのが本書「楽園の泉」である。もうひとつ、チャールズ・シェフィールドの「星ぼしに架ける橋」が同じ年に発表され、邦訳もされているが残念ながら私は読んでいない。
 もはや日本のアニメでもおなじみになっており、多くの人に概念だけは知られるようになったと思う。現実には、素材だけでなく、軌道上の人工衛星の問題や設置場所、環境影響、事故などのリスクの大きさから「近未来」というわけにはいかないであろう。ただ、重力の井戸の底から毎度毎度大きなエネルギーをかけて大気圏外の軌道上に出るというのは実にしんどい話であり、理屈としてはスマートである。

 さて、本書「楽園の泉」は、まさしく軌道エレベーターをつくるだけの作品である。主な舞台は22世紀中葉。建設場所は、現実よりはちょっと位置が変わっているスリランカの霊峰である。本書では、クラークらしく科学と宗教について語られたり、地球外文明との接触、地球温暖化による影響なども盛り込まれ、楽しく読めるよう工夫が凝らされている。
 本書「楽園の泉」の舞台となるスリパーダ、ヤッカガラの山肌を僧侶が裸足で歩く姿は、とても美しい。クラークはこの美しさと破壊の美しさをどのように頭の中で整理しているのだろう。

 それにしても、軌道エレベーター物語は、それで完結してもよかったのではないかと思う。どうして、地球外文明との接触についても語ってしまったのだろう。クラークだからとしか言いようがない。





(2008.09.30)




TEXT:丸目はる
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