はるの魂 丸目はるのSF論評


アインシュタイン交点
THE EINSTEIN INTERSECTION

サミュエル・R・ディレイニー
1967



 暗喩と物語=世界の解体と再生の物語。こういうの面倒なんだよなあ。じっくり、しっかり、何回も読み返すような作品だから。「アインシュタイン交点」はディレイニーが25才の頃に発表した作品であり、作者としては「A Fabulous, Formless Darkness」という、なんかよくわからないけれど形のないような暗闇とかいう意味のタイトルを付けていた、そういう感じの物語である。
 ひとりの農村で暮らし、山刀につけた笛で多彩な音楽を奏でる男が、ひとりの女に恋をして死に別れる。彼女の死の原因と、彼女を死の世界から取り戻す可能性を込めて、彼は住み慣れた世界を離れ、旅をすることとなる。ドラゴンを助け、ドラゴン使いの仲間となって都市を目指す。その過程で、すべてに対する裏切り者と、男の親友と、男の敵を見つける。やがて、情愛と美と豊饒の象徴たる女に出会い、世界は変わる…。
 うーん、物語だ。
 地球に生まれた人類が何らかの理由でいなくなって3万年後、人類のようで人類でない人達の異質で同じで違っている世界。不思議な世界を旅する男。そして、本書を書き記しながら世界を旅する若きディレイニー。さまざまなよく分からないけれど形のないような暗闇が混ざり合い、溶け合い、別れ、引きつけられ、混沌と落ちていく。それもまた暗闇。そして、暗闇の先にある希望。まか不思議な希望。
 音楽。ロックと、オルフェウスと、ビートルズと、クラシックが混ざり合う物語。
 死と性愛が混ざり合う物語。
 異形と異形の中の異質とが、冒険と戦いと出会いとの背景に流れる物語。
 ドラゴンが、血をすする花が、心的調和ともつれ狂った反応の連合を担当する過去のコンピュータが、緑のひとつ目の男が、下半身が獣のようにがっしりとした男が、物語の中に流れていく。
 一瞬一瞬のイメージとして物語を静止させ、絵画にしていくことで、神話は人々にわかりやすく消化され、解脱されていく。
 そういう風に読んでおくと、疲れず、楽しめる。



ネビュラ賞受賞作品



(2008.07.20)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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