はるの魂 丸目はるのSF論評


HAMMERED 女戦士の帰還
HAMMERED

エリザベス・ベア
2005



「サイボーグ士官ジェニー・ケイシー1」として登場したエリザベス・ベアの三部作第一弾である。私は、食わず嫌いが多くて、こういう最初からシリーズですよ。主人公がヒーローですよ、といった感じの作品はなかなか手を伸ばさない。なんかめんどくさい感じがするのだ。それでずいぶんおもしろい作品を逃しているのは間違いない。
 SF好きの食わず嫌い。困ったものである。

 で、読むことにした。
 2008年3月に出たばかりの「HAMMERED 女戦士の帰還」。
 舞台は2062年の地球。気候変動が進み、海面は上昇し、北アメリカでは夏が暑く、冬は寒くなっていた。食料や資源をめぐり各地で戦争が起き、アメリカは宗教原理主義となり世界の覇権を失い、現在はカナダが世界の警察の役割を担っていた。カナダを支えるのは、多国籍企業のユニテック社。そして、両者の最大の敵は中国。
 主人公は、もちろん「ジェニー・ケイシー」さん。当年とって50歳ちかく。以前はカナダ軍にいて、航空機でのレスキュー作業中に爆発に巻き込まれて死にかけた。半身不随になるところを、実験的手術によってサイボーグ化され、左目は人工眼、左手は金属製の義手、神経系も一部人工化されたことで日常生活は可能になっている。しかし、身体のメンテナンスは欠かせず、生活は辛い。今は、メイカーと呼ばれ、犯罪の多い小さな町でひっそりと暮らしていた。
 ところが、その町に、メイカーことジェニーが以前軍で使用していた特殊な麻薬が入り込む。少年がひとり死に、町の顔役でありメイカーには頭の上がらないステンレス歯の大男レザーフェイスが怒り狂う。麻薬を持ち込んだルートを探すうちに、メイカーが何者かに狙われていることをつきとめたレザーフェイス。どこか知らないところで、何かが起きており、それはメイカーに関わっていた。
 そう、知らないところで、何かが起きていた。
 完全な人工人格を完成させた天才科学者エルスペスは、国家軍事法違反で12年間軍刑務所に入れられていたが、釈放され、かつて彼女を裁判にかけたヴァレンス大佐のもとで働くことになった。
 ふたりの娘を抱えた元軍人で天才的ハッカーのガブ・キャステインもまた、下の娘の難病治療のため、ユニテック社と契約し、カナダ軍とユニテック社の間にいるヴァレンス大佐の指揮下におかれることになった。
 ヴァレンスこそ、メイカーがもっとも恐れ、もっとも憎み、もっとも忌み嫌う存在である。彼女を手術した軍属医学博士であったからだ。
 カナダと中国は火星を中心に宇宙開発でも熾烈な競争を続けている。
 地球は資源と土地と、安定した気候を失いつつある。
 もはやどこにも安楽な生活は、ない。

 末期的な世界で、50歳のハードボイルドな元兵士の女性が、心の中にある正義を秘めながら、世界的な出来事に巻き込まれていく。
 激しい肉弾戦、武器、新しい技術、未来へのかすかな希望と絶望、企業、宗教、世界の荒廃、生態系の荒廃。「HAMMERED 女戦士の帰還」は、満載。
 ハードボイルドアクションSFといったところである。
 さらりさらりと読める。
 何も悩まず、楽しく読める。
 娯楽SFだ。
 ちょっと宇宙をにおわせながらも、舞台はあくまで荒廃した地球。
 いいねえ。好きな設定だ。
 それにしても、舞台は2062年。あと50有余年後である。
 運がとびぬけて良かったりすると、よぼよぼで生きている可能性がある。
 この、ひとつの可能性がある地球は住みにくいなあ。
 明るい希望に満ちた未来の地球はどこに消えていったのだろう。
 ところで、何が「女戦士の帰還」だって。それは読んでからのお楽しみ。



(2008.4.15)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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