はるの魂 丸目はるのSF論評


竜の探索
DRAGONQUEST

アン・マキャフリイ
1971



 たった今まで気がつかなかったのだが、この原題って「ドラゴンクエスト」なんだ。おおお。ドラクエだ。私はやらなかったのだが、友人がはまっていたなあ。1986年にドラクエがファミコン用ソフトとして発売され、ドラクエ2が1987年1月なので、ちょうど大学4年の頃である。友人が社会人になって1年目の多忙な時期にふらふらになりながら復活の呪文をメモで書き留めていたのを覚えている。
 っと、そういう話ではなかった。こちらは、パーンの竜騎士シリーズの2作目「竜の探索」である。数百年前に人類は惑星パーンに入植した。しかし、その後、星系を楕円に回る惑星が近接すると、その惑星から糸胞と呼ばれる有機物を食い尽くす生体が雨のように惑星パーンに降り注ぎ、人々とその植民地を焼き始めた。植民者達は、彼らの科学技術を使っていこれに対処。テレポーテーション能力を持ち、鉱石を口に含むことで火を噴くことができる竜に似たパーンの生物を遺伝子操作によって巨大化させ、空に糸胞があるうちに焼きつくすようにした。この「竜」を操るのが竜騎士達である。竜騎士は、植民者のうち、共感能力やテレパシー能力を持つものが選抜され、訓練されたものたちであった。また、そのほかにもいくつかの対策をとっていたが、長年の糸胞との戦いと、惑星がパーンを離れた後の平穏な時代の繰り返しのうちに、人類の科学技術は忘れ去られ、中世のような領主とギルドと騎士による社会ができていた。
 前作「竜の戦士」では、400年ぶりに起こった糸胞の襲来に、わずかに残っていた竜騎士や、400年の長きにわたって伝説や掟を信じてきた一部の領主、ギルドの長らによって、初期の対応がはかられるまでの非常時の歴史が語られた。

 本作は、それから7巡年(惑星パーンの公転周期)後の世界が語られる。7巡年前、竜騎士の名声と名誉は最高潮に高まり、竜騎士は自信と誇りを持って糸胞との際限なき危険な戦いに挑んでいった。しかし、危機が日常になれば、状況は変わってくる。竜騎士と領主、ギルド間の不満、竜騎士間の不満や意見の齟齬は高まり、ついには、竜騎士同士の刃傷沙汰が起こってしまう。そのことに衝撃を受けたリーダー達は、なんらかの対応に迫られる。時同じくして、糸胞の来襲が予想した周期と異なりはじめた。パターンを読めないなかで、竜騎士は疲れ、領主達はさらに不満を募らせる。そこに、大昔の伝説の技術の一部が発見された。危機の中の安定が不安定へとかわり、やがて変革の時を迎える。

 アン・マキャフリイの中で、本作は大きな転換点になったと思われる。パーンの竜騎士は、本作の発表をもって本格的なシリーズとなり、壮大な惑星パーンの人間と竜の物語となった。SFであると同時に、ファンタジーであり、どちらから見てもおもしろく、かつ、奥行きを感じさせる物語のタペストリーが編まれることになったのである。いわゆる大河ドラマである。マキャフリイには、「歌う船」シリーズや「九星系連盟」シリーズなどがあるが、この「パーンの竜騎士」シリーズほど長く、思い入れ深く描かれている作品群はない。もちろん、第一作の「竜の戦士」の元となった中編がなければ本シリーズは誕生しないわけだが、これがひとりの主人公を超えて多くの登場人物達が複雑に絡み合いながら物語を織るのは本書からであると言ってもいい。感慨深い作品である。


(2007.9.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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