はるの魂 丸目はるのSF論評


エンディミオン
ENDYMION

ダン・シモンズ
1996



「ハイペリオン」四部作の第三部、後半の「エンディミオン」二部作の一である。連邦の崩壊と連邦間の行き来が事実上不可能になってしまった崩壊から247年、ロール・エンディミオンが惑星ハイペリオンのエンディミオン市に生まれる。彼は後に「教える者」の保護者として知られることになる。物語は崩壊から275年後、ロール28歳のときにはじまる。連邦の崩壊後、聖十字架をコントロールして死からの再生をもたらす道を開いた教会はパクスと名乗り、政治、経済、軍のすべての力をコントロールしていた。聖十字架をつければ、死からの再生がもたらされる。聖十字架をつけて間違いなく再生するためにはキリスト教を信仰し、パクスに入るほかはない。パクスは、断絶された人類世界を急速に統合しはじめていた。ハイペリオンでもまた…。
この年、最初の死刑判決を受けたロールは、聖十字架を拒否するひとりであった。真の死を目前に「ハイペリオン」の巡礼である詩人のサイリーナスと出会い、ヒーローになることを求められる。いわく、のちに「教える者」として知られることになるべく生まれ、幼少の頃に時のかなたに姿を隠した巡礼ブローン・レイミアの娘アイネイアーをパクスから救い出し、守り、ともに旅をして、失われた地球を見つけ、元の場所に戻し、テクノコアの目的を探り、それを防ぎ、アウスターと接触し、真の不死の道があるかどうかを確かめ、パクスを滅ぼし、シュライクを食い止めろ、と。
家を飛び出し、ハイペリオンの自衛軍を皮切りに、カジノの用心棒兼ディーラー、はしけの船頭、造園助手、狩猟ガイドなどをつとめていた、頑丈で一途で直情的で、記憶力は優れているけれど、ちょっと抜けているところもある田舎の青年ロール君は、行きがかり上、サイリーナスの頼みを引き受けてしまう。そうして、「ハイペリオン」で一時巡礼達を導いたアンドロイド・ベティックや巡礼であった領事の口うるさい私的宇宙船など、ロール君にとっては300年も前の歴史時代に取り囲まれ、混乱しながらも、わずか12歳で全パクス軍から狙われるアイネイアーを救いに出かけるのであった…。
パクス軍からは、信仰厚きデ・ソヤ神父大佐が追撃役に選ばれる。
アイネイアーと出会ったロール君は、A・ベティックとともに逃げるのだけれども、アイネイアーがいれば、連邦の崩壊とともに失われた惑星間をつなぐゲートが開いて転移することができるのだ。ところが、デ・ソヤ神父大佐はその方法が使えない。そこで、パクスはデ・ソヤ神父大佐に超光速の大天使級急使船を与えた。その加速度は、中にいる有機体を完全に殺してしまう。しかし、聖十字架をつけており、適切な措置がなされれば3日あれば完全に再生できる。デ・ソヤ神父大佐は、アイネイアーを追い求めるために、何度も死んではよみがえる苦痛の旅を科せられる。それでも、信仰の力とルパン三世を追いつめる銭形警部のようなしつこさ、そして、ホームズのような推理力でアイネイアーを追いかけていく。逃げる、追う、逃げる、追う。連邦崩壊後のいくつもの惑星をめぐる旅がはじまる。
砂漠の星、氷の星、緑の星、やさしい星、厳しい星…。
未来をかいま見ることができ、さまざまな能力を持つアイネイアーだが12歳の少女であることも事実である。保護者として、全力を、いや全力以上をつくしながらアイネイアーを守ろうと奮戦するロール君。がんばれ、ロール! 負けるなロール! きっといいこともある…と思うよ。

とにかく、冒険物語である。追われる側も、追う側も、味もくせもある存在ばかり。それぞれに理由や目的はあるのだが、そういうスパイスをふりかけながらも、本筋は、次々と訪れる危機、また、危機。冒険、めくるめく世界。とにかくジェットコースターに乗ったような気持ちで一緒に旅を続けるだけである。ページをめくり、世界に思いをはせ、ロール君を応援しながら読む。読もう。おもしろい!
四部作のうちでえもっとも気持ちよく読める作品である。



(07.07.31)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ