はるの魂 丸目はるのSF論評


ハイペリオンの没落
THE FALL OF HYPERION

ダン・シモンズ
1990



 20世紀の傑作「ハイペリオン」の対となる作品が「ハイペリオンの没落」である。「ハイペリオン」では、巡礼達のひとりひとりの物語が、惑星ハイペリオンや、舞台となっている28世紀の人類社会、人類を支えているようでいて人類を滅ぼそうとしているようなAIたちなどを、そのひとつずつの物語の背景に描き、ハイペリオン巡礼の意味や理由、その謎を示してきた。しかし、「ハイペリオン」では、謎は謎として描かれ、シュライクや時間の墓標、宇宙の蛮族アウスターがハイペリオンを襲う理由やAI群テクノコアの目的などが語られることはなかった。
 本書「ハイペリオンの没落」は、巡礼達の視点を離れ、転移ゲートで結ばれた連邦の惑星社会と、それに襲いかかるアウスターの脅威、それに立ち向かう連邦軍との戦争、テクノコア内部の対立などが描かれ、そのなかのひとつの焦点として、巡礼達がその後、どのようになっていくのかが描かれる。
 語り手は、神の視点を持つが、語り手自身にもその理由さえ分からないままに、語り手は、ほぼすべての物語を語る。語り手を含め、前作で広げるだけ広げられた謎は、本書「ハイペリオンの没落」の後半で一気に語られていく。
 そのスリリングさ、まさしくセンス・オブ・ワンダーである。

 前作「ハイペリオン」よりも、よりアクションSFであり、個の戦いから宇宙艦隊の戦い、知略なども楽しむことができる。
 さあ、時間の墓標が開くぞ。シュライクが出てくるぞ。終わりなき苦痛に身をよじるぞ。登場人物はひとりずつ試され、判断し、苦しみ、また、許され、許し、泣き、愛し、ある者は死に、あるものは英雄となり、あるものはひっそりと消える。

 読み終わった後には、すっきりした爽快感が残される。

 それは、望む未来ではないが、その未来にも希望がある。



ローカス賞受賞作品

(2007.7.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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