はるの魂 丸目はるのSF論評


ハイペリオン
HYPERION

ダン・シモンズ
1989



 20世紀のSFを集大成する作品、SFのすべて、SFを読み続けたご褒美…。最大の讃辞をもって迎えられたのが本書「ハイペリオン」をもってはじまった「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」「エンディミオン」「エンディミオンの覚醒」の4部作である。
 ハードカバーが平積みされていたものなあ。とはいえ、私が買って読んだのは2000年に文庫化されてからのことである。最近の小説では文庫とハードカバーの価格差がそれほどなくなったので、ハードカバーを買ってもいいようだが、どれほど賞賛されていても、なかなか初物の作家は買いにくいのだ。
 しかし、間違いなく、本書「ハイペリオン」と「ハイペリオンの没落」は傑作である。
 傑作の前に、言葉はなくなり、ただページをめくるだけである。

 時は28世紀。地球は失われ、人類は宇宙へと拡散した。最初は、超光速のホーキング駆動量子船によって、惑星を開拓していった。やがて、人類から独立したAIのサポートによる転移ゲートによって植民星同士が結ばれ、人々は日々あたりまえに星から星を渡り歩くようになった。転移ゲートさえあれば、夕食に別の星のレストランに行くことも、毎日、家から別の星の職場に行くことも簡単である。金持ちは、ひとつの部屋にいくつもの転移ゲートを設けて、星をまたぐ広い部屋で景観を楽しむことさえした。
 いまだ転移ゲートの設けられていない辺境の星ハイペリオン。そこには、他のいくつかの植民星に見られるような人類以前からの遺構があった。エントロピーに逆らい、時に逆らって存在する「時間の墓標」は、科学者、宗教者、詩人らを呼び寄せてきた。
 人類の連邦は、人類から分かれて進化した蛮族種属であるアウスターが、ハイペリオンを侵攻する情報を確認する。時を同じくして、この「時間の墓標」が開きはじめる兆候があるという。そこには、シュライクと呼ばれる無敵の殺戮者が封じられているという。
 この内外の危機の中、連邦、シュライクを苦痛の神として奉じるシュライク教団らの思惑から、7人の選ばれし者がハイペリオンへの巡礼の旅を命じられる。彼らはそれぞれに、「時間の墓標」を目指す理由を持つ者たちであった。
 ふたりの宗教者、ひとりの兵士、ひとりの詩人、ひとりの私立探偵、ひとりの研究者、そして、ひとりの元ハイペリオン領事の7人が、戦争の予感にふるえ、殺戮の恐怖におびえる惑星ハイペリオンに降り立ち、巡礼の旅に出る。そして、その途中で、ひとりずつ、自らとハイペリオンのつながりの物語を語る。
 その物語ひとつひとつが独立した美しい、心躍る、心を打つ、夢のような、物語である。
 すべての物語が、ひとつにまとめあげられ、滅びの予感の中に、人間の物語がある。
 最高のエンターテイメントであり、物語であり、ミリタリーSFであり、人工知能やサイバー空間のSFであり、時間SFであり、泣けるSFであり、笑えるSFであり、冒険SFであり、ハードボイルドSFであり、エコロジーSFであり…。ああ、もう。
「スターウォーズ」「マトリックス」「ブレードランナー」「ハムナプトラ」「パイレーツ・オブ・カリビアン」、そういったSFXやCGたっぷりの映画のような興奮、楽しさも満載なのに、きちんと現代文学しているところもある。
 ま、飽きないから読んだ方がいい。
 そうそう、忘れずに「ハイペリオンの没落」は用意しておいた方がいい。
 本作「ハイペリオン」と「ハイペリオンの没落」は対になっている作品であり、一連の流れで読んだ方がより楽しめる。
 損のない作品であることだけは請け合える。


ヒューゴー賞・ローカス賞受賞


(2007.7.20)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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