はるの魂 丸目はるのSF論評


発狂した宇宙
WHAT MAS UNIVERSE

フレドリック・ブラウン
1949



 時は1954年のアメリカ。いよいよ宇宙時代に入ろうとしていた。まずは、ロケットを月に送り込み、月にぶつけて「バートン式電位差発生装置」により、静電気発光をさせて地球から光を観察しようという実験が行われた。それを眺めようと思っていたSFパルプ雑誌編集長のキース・ウィンストンは、社長の邸宅に招かれていた。
 ところが、実験は大失敗したらしい。
 気がつくと、彼は爆発に巻き込まれ、違う地球にたどりついていた。
 1954年のアメリカだが、宇宙旅行はあたりまえ、月や金星、火星に植民し、月人が地球に訪ねてきたり、アルクトゥールス星とは戦争をしているらしい。ドルは使えず、クレジットという単位が流通する世界。そう、そこは無限にあるパラレルワールドのひとつ。そして、SFパルプ雑誌が現実となったような世界であった。
 知っているようでまったく異なる世界に放り込まれたキースは、自分が狂っているのか、世界が狂っているのかを悩みつつ、アルクトゥールス星のスパイと間違われ殺されかかったり、濃霧管制が敷かれているニューヨークで追いはぎに殺されそうになったりしながらも、なんとかこの世界で生きていかなければとパニクりながらも努力をはじめる。
 しかし、そうそうやさしい世界ではない。
 帰りたいよお。ってなものだ。
 1940年代パルプマガジンのくだらなさを逆手に取ったSFパロディ作品であり、永遠の名作である。日本では元々社が最初に翻訳し、その後ハヤカワSFシリーズ入り、そして、1977年に筒井康隆のあとがき付きでハヤカワSF文庫化され、途中、入手しづらい時期もあったが、2005年で21刷を数えるまでになっている。というか、私はこの2005年の表紙新装版を持っているわけだ。
 はずかしながら初読みである。
 この名作「発狂した宇宙」を読んでいなかったのだから、SF読みとしてはなかなか「読んでません」と言えなかったのだが、読んだので言う。「読んでませんでしたー」
 出版されたのが1949年である。まだ、テレビはない。ラジオの時代だ。車だって、いろんなメーカーが出てきたがフォードの時代は続いている。そんな時代背景の中で、エイリアンが美女を襲い、ヒーローが美女を救い、地球を危機から守るのだ。
 そんな世界に放り込まれたら、どうなるか。
 今読んでも古くない。ぜんぜん古くない。いや、古いか。古くて新しい。うーん。
 パラレルワールドのユーモアSFとしては超一流である。
 古いSF小説や映画を見たことのある人ならば、楽しめること請け合い。読んだり見たりしていなくても、なんとなくわかっちゃう雰囲気がある。
 あとがきの筒井康隆が高く評価しているのは、80年代風に言えばメタSFだからだ。筒井康隆も同じ路線をずっと目指していた作家の1人なのであろう。それはのちの作品を読めば分かる。分かるけれど、本書「発狂した宇宙」には負けているよなあ。時代の力かも知れないが。


(2007.05.31)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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