はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙の小石
GALAXY OF THE LOST

アイザック・アシモフ
1950


 本書「宇宙の小石」は、アイザック・アシモフの未来史の中で、トランターものとして位置づけられている作品であり、銀河帝国=トランターの歴史としては最初期のものと位置づけられている。
「銀河帝国の興亡」(創元、ハヤカワでは原題通り「ファウンデーション」)シリーズは長く、続編が書かれることはなく、1880年代に入ってから、アシモフ自身によって続編やロボットシリーズとの融合が行われ、アシモフの死後、公式に新三部作がBのつく3人のSF作家によって書かれ、その際に、過去の作品群の矛盾を回避するための工夫がされていた。
 そういうこともあって、本書「宇宙の小石」もまた、銀河帝国の歴史の一こまとなっている。特に、主人公の1949年というはるか過去から来た男であり、仕立屋のご隠居ジョゼフ・シュワーツが、未来で開花させた能力である読心力と精神操作能力は、ファウンデーションのミュールやその後登場する能力者たちの先駆けとして位置づけられる。また、地球がかつて核戦争によって汚染されていたことなども「地球」をめぐる未来の物語の大きな鍵となっている。
 本書「宇宙の小石」を、独立した作品ではなく、ファウンデーションシリーズに位置づけて読むと、そういうところばかりに目がいってしまう。
 しかし、独立した作品として読むと、1949年、50年当時のSFの姿が見えてくる。  1949年から主人公の知るよしもない核関連実験によって遠い未来に飛ばされ、言葉も通じず、自暴自棄になって、未来の地球での科学実験材料になり、その結果、比類なき能力を発揮する。その未来の地球と地球人は、銀河帝国の中で差別され、厭われていた存在であった。あまねく広がり、2億の有人惑星と約50万兆人の人口を持つ銀河帝国にあって、唯一放射線に汚染された惑星が地球であり、地球人は他の銀河帝国人とは混血することはできない亜人間だと思われていた。もちろん、地球が人類発祥の地であるという説は異端であり、主流は惑星ごとに汎発生した結果であるとされていた。地球人は、銀河帝国と帝国群の支配のもとで、わずか2千万人の人口を維持するのも容易ではない状態であった。人口を維持するために、60歳になったら人々は死ななければならない。地球人の寿命は60歳であったのだ。それは、銀河帝国では考えられないことであったが、地球の常識であった。地球政府の総理大臣は地球こそが人類の発祥であるという古代教団の大僧正であり、銀河帝国の支配から逃れるための秘策を考えていた。
 ひょんなことから、過去からやってきたシュワーツは、未来の地球が核戦争の結果衰退し、地球人の誇りすら失われていることを知る。
 異端の人類地球発祥説を唱える銀河帝国の科学者と地球人の利発な娘の恋や、銀河帝国政治家と地球の政治家たちの丁々発止のやりとりを目の当たりにしながら、シュワーツは、銀河帝国と地球の未来に関わる大きな決断をする。
 そう、彼は懐かしき1949年に帰ることができないのだから、未来を選択するしかないのである。

 核戦争の恐怖、宗教的な偏った思想が政治力を持つときに現われる凶器、無知と偏見による差別と迫害など、当時のアメリカや世界の政治状況、軍事状況を色濃く反映した作品である。
 アシモフはほとんど政治的な発言をしなかったし、本書も「政治色」はない。しかし、時代背景が第二次世界大戦の終わった安心感よりも、次の戦争への不安感に満ちていたことを感じる作品となっている。軽い絶望といってもいいかもしれない。
 そして、絶望で終わらないのがアシモフである。必ず最後に、ちょっと楽天的な落ちをつけて読者を安心させる。
 アイディアよりも、むしろアシモフのこういった楽天的なところが長く人気を博していた理由かも知れない。

 とりわけ、初期の作品群は読んでいてほっとするところがある。まだ、アシモフが若かったからかも知れないが。

ところで、本書「宇宙の小石」は創元推理文庫SFとして1972年に邦訳出版され、手元には1976年の第9版がある。表紙は司修氏による赤い背景にロケットが飛んでいるイラストであった。その後、新装版としてイラストも現代風になり出版されている。また絶版になっているようだが。

(2007.05.11)



TEXT:丸目はる
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