はるの魂 丸目はるのSF論評


星屑のかなたへ
ALIFE FOR THE STARS

ジェイムズ・ブリッシュ
1970


 ジェイムズ・ブリッシュの「宇宙都市」シリーズ第2弾で、唯一のジュブナイル作品。しかも、「宇宙都市」4作品のうち最後に書かれた作品で、3作品をつなぐファンにはたまらない作品、らしい。
 いや、私はここまでしか買っていなかったのだ。本書は、ハヤカワ文庫SFとして、昭和53年(1978年)に邦訳出版されている。13歳の秋、中学生だなあ。貴重なおこづかいを使っていたので、1冊1冊吟味して買っていたのである。ということで、本書「星屑のかなたへ」を読んだ後、次を買うことができなかったのだ。当時の私のランキングとしては。
 しかし、今、歴史的に振り返ってみて、この「宇宙都市」シリーズは、SFに大きな影響を与えている。先日読んだ「移動都市」(フィリップ・リーヴ 2001)などは、都市がエンジンとキャタピラをのせて走り回り、都市を食い合うのだが、本書では、地球の都市が次々と宇宙に出て行き、宇宙に広がっていく物語である。宇宙人に都市ごととらえられる「マンハッタン強奪」(ジョン・E・スティス 1993)なんていうのもある。都市ごと移動するというのはすごいイメージなのだ。宇宙戦艦ヤマトでも第二作の「さらば宇宙戦艦ヤマト」の白色彗星都市なんていうのもこのイメージだなあ。  ところで本書「星屑のかなたへ」だが、紀元3千年代、地球に大きな都市は残っていなかった。今や数少なくなった小さな都市も、地球を去り、放浪都市になろうとしていた。ペンシルバニア州スクラントン市も加工する資源を失い、宇宙に活路を求めて地面ごと旅立とうとしていた。その旅立ちを眺めていた16歳の少年クリスピン(クリス)・ディフォードは、境界を越えたところでスクラントン市のパトロールにつかまり、強制収容される。元経済学者の父を持ちながらも十分な教育を受けることができなかったクリスは、趣味の天文学を生かし、なんとかスクラントン市で学者の助手としてもぐりこむことができた。そして宇宙で、巨大都市ニューヨークとスクラントン市が邂逅し、クリスはニューヨーク市に引き渡されてしまう。そこでクリスは新たな冒険を経て成長していくのであった。
 典型的な少年成長の物語であり、まさしくジュブナイルである。
 壮大な未来史、壮大なイメージ、鶴田一郎による表紙は、青い地球の空を背景に、都市が地面から空に向かって今にも浮かぼうとしている。その異様さ。おもしろいのになあ。
「地球人よ、故郷に還れ」「時の凱歌」をどこかで探して読んでみたいなあ。





TEXT:丸目はる
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