はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙零年
THEY SHALL HAVE STARS(YEAR 2018)

ジェイムズ・ブリッシュ
1956(1970)


 宇宙都市シリーズの第一弾である。1981年にタイタン基地が設立された歴史の人類史である。2013年に物語はスタートする。20世紀後半に人類は宇宙開発に着手したものの、21世紀初頭にかけてその取り組みは芳しくなく予算も削られていった。
 そんななかで、ひとりのアメリカ合衆国議員が途方もない計画を打ち上げ、それはいつの間にか予算化され、実行に移されていた。木星での「橋」の建設である。何のための「橋」なのか? 軍事目的なのか? 単なる研究なのか? それを知るものはほとんどいない。
 一方、宇宙の各地の土をサンプルとして集め、そこに含まれる微生物の生成物を研究している製薬会社があった。そこには、軍人や政治家の影がある。その企業の目的は? 何を研究しているのか? 誰のために? 何のために?
 ひとりの木星の研究者が、ひとりの宇宙パイロットが、それぞれに「謎」をかかえ、謎に迫ろうとする。
 人類が太陽系を超えてゆく未来史の前史を語る作品が登場した。
 それが、本書「宇宙零年」である。
 壮大な木星を舞台にした「橋」の光景を想像できるだろうか?
 1950年代の知識をもとに、木星を描いたジェイムズ・ブリッシュの意欲作と言ってもいい。  ちなみに、本シリーズは、「宇宙零年」「星屑のかなたへ」「地球人よ、故郷へ還れ」「時の凱歌」の4作品があり、1955年から62年に発表された、SF黄金時代のシリーズである。それゆえに、設定や内容はたいへんに古い。たいへんに古いが、当時としては、「ハード」なSFであったのである。
 なんといっても50年前のSFである。
 まだ、抗生物質によって微生物による感染症は壊滅できると信じられていたし、宇宙は目の前に広がっていたのである。
 今や、生物の適応力のすごさをあらためて知らされ、宇宙の広さの前にあたかもおびえるかのように開発の手は止まっている。
 50年前のような底抜けの明るい科学技術展望は必要ないにしても、その希望に裏打ちされたエネルギーは見習いたいものである。

 ちなみに、私の手元には、「宇宙零年」と「星屑のかなたへ」だけが残っている。高校生の当時、読んでつまらなかったのかなあ。
 古いハードSFだものね。

(2006.11.29)



TEXT:丸目はる
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