はるの魂 丸目はるのSF論評


宇宙怪獣ラモックス
THE STARBEAST

ロバート・A・ハインライン
1954


 へえ、今出ている大森望訳の「ラモックス ザ・スタービースト」って完訳版なんだ。知らなかった。私が持っているのは、角川文庫版の「宇宙怪獣ラモックス」で、福島正実訳のものである。岩崎書店刊のものを1976年に角川が文庫化、その初版をおそらく翌年ぐらい、小学校4年か5年の頃に買った。はじめて買った「文庫本」であると思われる。文庫コーナーは、田舎の本屋の中で大人が行くところで、子どもである私は、ちくまとか、ポプラとか、少年少女SFシリーズとか、そういうところに行くものだと勝手に思いこんでいて、本屋の中で「冒険」して見つけたのが本作品である。創元やハヤカワにすばらしい世界が開けているのを知るのは、あと1年ほど後のことである。そのきっかけを与えてくれた作品であると言える。だから、とても思い出深い。
 そこで、完訳版の「ラモックス ザ・スタービースト」を読む前であるが、本作について書いておきたい。

 物語は、ハインラインのジュブナイル作品のひとつである。それを福島正実が、日本の少年少女のために訳しているのだから、読みやすいことこの上ない。福島先生ありがとうである。
 話しは簡単。100年前の超空間飛行による初期宇宙探検の頃、1匹のかわいらしい異星動物を持ち帰ったジョン・トーマス・スチュアート。その動物はラモックスと名付けられ、彼の息子のジョン・トーマス・スチュアート、その息子のジョン・トーマス・スチュアート、さらに息子のジョン・トーマス・スチュアートによって育て続けられていた。今や体重6トン。8本足でのし歩き、か細いながらも人間の言葉を話し、鉄をはじめあらゆるもの、動物、植物を食べることをこよなく愛する巨大な動物となっていた。ある日、ラモックスがジョン・トーマスの留守中に隣のうちのバラを食べ、隣人に追われて逃げ出し、町や畑で大騒動を起こしてしまう。一方、地球を含む17の惑星を版図に加えた地球では宇宙省が、他の異星人らと外交を行い、異星人、異星生命関係の様々なトラブルに対応していた。もちろん、ラモックスの件も宇宙省に報告されたが、宇宙省は、いくつもの異星人との頭の痛い交渉ごとに追われていた。きわめつけが、外交のない異星宇宙船がかつて彼らのひとりを地球人が誘拐したとして、帰さなければ地球を破壊すると脅しているのである。
 ラモックスをめぐり引き起こされる田舎での警察、弁護士、裁判所をめぐる騒動。ジョン・トーマスと、気の強い相棒のベティをめぐる騒動。宇宙省内部の権力争いや、政府とのやりとり、軍との騒動。異星人達やマスコミなどとの騒動。などなど、現代社会を戯画化して、ハインライン特有のユーモアと民主主義と人に対する条件を折り込みながら、物語はジュブナイルならではの大団円に向かって突き進む。読み終わったらきちんと爽快。そして、悠々たるラモックスの6トンもある愛らしさよ。

 さて、近々、大森望訳による完訳版を読んで、同じような読後感が味わえるか試してみたい。

 ちなみに、1954年に書かれた本書でも、地球人口は50億人である。
 もひとつ、思い出しついでに、私が小学校6年生のときに、それまで持っていた文庫のSFの表紙をはがしてしまった。なぜだろう。そのため、本書も表紙がない。残念。


(2006.09.18)



TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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